書評books 戦時下の教会の罪を知ることで 神の赦しと愛に生きる
日本福音キリスト教会連合 布佐キリスト教会 牧師 児玉智継

『戦時下の教会を知ろう 新たな戦争を回避するために』
 山口陽一 著
B6判・116頁
定価1,320円(税込)
いのちのことば社
本書は東京基督教大学の日本キリスト教史の講義ノートをもとに執筆されたものである。したがって、最初から若者が意識されていたことが分かる。著者は戦時下の教会を次世代と分かち合いながら、世代を超えた教会の歩みを考え、イエス・キリストの福音にふさわしい、武力によらない平和の道を探ってゆく。著者の講義を聞いた卒業生たちの「応答」は、過去と現在を結びつけ、神の民のあり方を問い直させてくれる。
本書は戦時下の教会が犯した過ちについて的確で端的にまとめられている。多くの写真が収録されていることも本書の特徴の一つであり、平面的な説明を立体的なものにしてくれる。とりわけ、青山学院で開催された「皇紀二千六百年奉祝全国基督教信徒大會」(三三頁)、全国の信徒の献金によって寄贈された戦闘機「報国三三三九號」(三五頁)の写真は衝撃的だった。かつての日本の教会の罪がリアルに迫ってくる。読者は、二度と同じ過ちを繰り返してはならないという強烈な願いと、それを防ぐためにはどうしたらよいかという真剣な反省を持つことを求められるだろう。
ルカの福音書七章の罪深い女の物語が思い出される。主イエスは言われる。「この人は多くの罪を赦されています。彼女は多く愛したのですから。赦されることの少ない者は、愛することも少ないのです」(ルカ7・47)。日本において、戦時下の教会を知ることは、多くの罪が赦されていることを知るという信仰的な営みである。と同時に、多く愛することへの招きでもあるのだ。逆に言えば、戦時下の教会を知ることがなければ、愛することも少なくなってしまうのではないか。多くの罪が赦されていることを知り、神を愛し、隣人(アジア諸国の人々)を愛する歩みへと進んでゆきたいと願わされる。各章のおわりには、自分の考えを整理したり、グループで分かち合うための問いが設定されている。それを通して、自己や他者との「対話」が生まれることで、平和への一歩を踏み出してゆくことになるだろう。
戦後八十年を迎え、過去の戦争の記憶が失われつつある今、本書は必読の一冊である。
 
					