書評Books 光と陰を歩んだ聖書の人々

東京基督教大学神学部長・福音交友会派遣教師 大和昌平

 


『谷陰を越えて歩む 聖書の世界に生きた人々【旧約編】』
堀 肇 著
B6判 1,500円+税
いのちのことば社

人間の普遍的な「経験」にまで深められたものが言葉となって記されたのが聖書であると、森有正(哲学者、一九一一―一九七六年)は捉えていたようです。堀肇先生の新著『谷陰を越えて歩む―聖書の世界に生きた人々【旧約編】』を読ませていただき、そのことを思い起こしました。人間の歴史が時に赤裸々にも描かれた旧約聖書の人物にじっと寄り添い、その普遍的な姿をつかむまで、心の耳を傾けられた堀先生の時間を感じました。「谷陰を越えて歩む」と題された所以を「あとがき」にこう書かれています。

「聖書の中のどの人物も日の当たる光の中だけを歩んだのではなく、光と陰、喜びと悲しみとが交錯する人の世界を歩んでいったことに思いを寄せ、『谷陰を越えて』と表現しました」(本書一八一頁)。

好評のうちに版を重ねた前作『弱さを抱えて歩む―聖書の世界に生きた人々【新約編】』は家庭礼拝や教会の聖書研究会にも用いられ、ある教区のカトリック書店の推薦図書にもされたそうです。今回の旧約編は待ち望まれた一冊でありました。所々に添えられた著者自身による玄人はだしのスケッチがまた魅力的です。谷陰を越えて歩む人々に目を向けた一篇一々も、一枚の絵を描くように綴られた絵心のある人の文章と言えるでしょうか。

聖書に精通した牧師として、パストラル・カウンセラーとしての専門知識をもって、そして同じ血の通う人間として、旧約聖書の陰影に富む人物像を描かれた堀先生の個展に足を運ばれるようにして、五十五篇の文章を味わわれることをお勧めします。

それらの文章は、「分かれ道で選択する」「挫折から立ち上がり」「家族の確執が織りなすもの」「人生の締めくくり」「悲しみの彼方に」「理不尽と不運の中で」「自分らしい役割とは」という名の七つの部屋に分けられています。堀牧師に導かれて旧約聖書の豊かさに触れ直し、神の眼差しのもとにある私たちの人生の味わいに思いを致してはいかがでしょうか。