~Daily Light~ 第20回 美しい日々

石居麻耶 Maya Ishii

千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。

 

風に吹かれても消えないもの。本当にどうしようもないこともたくさんありますが、明日につながるものを考えたいと思っています。何気ない会話、今日読んだ本、聴いていた音楽、それぞれのリズムで鳴く鳥の声。普段そのままにしてしまいがちな心をかすめること。移ろいやすいのは季節の色ではなく、自分の心のどこかにある思い出の色彩なのでしょうか。上手に思い出すことも、時には上手に忘れることもまた、難しい。記憶の中にはたくさんの喜怒哀楽、またそれだけでは説明のつかない感情がいろいろ。

時を重ねるにつれて私が実感していることといえば、思い出というものを次第に上手に思い起こせるようになってきたということです。もしそこに美しさがあるとすれば、その美しい思い出とは一体何なのでしょう。

たとえば「赤の隣にある赤」と「青の隣にある赤」では、後者のほうがより「赤」を感じることができる。それは「青」についても同じこと。気づけば私たちはさまざまな色の組み合わせの光景の中に一つひとつの色を感じ取っています。意図的に作られた単色の空間でなければ、普段目にしている景色はさまざまな色の組み合わせによって成り立っています。そうなると「美しさ」そのものの形や色が存在するのではなく、何をどのように見るかによってそこに美しさが立ち現れてくるともいえます。過ぎた日の事実は変わらなくても、そうして思い起こされた「美しい思い出」は常に新鮮で、私たちを明日の希望へと導いてくれるものになるのかもしれません。

今はただ、喜びと共に描かれゆく、あの日のあの花、あの時間。あなたのいた日も、いない日も。
「実に、私たちは滅び失せなかった。主のあわれみが尽きないからだ。それは朝ごとに新しい。」 (哀歌3章22~23節)