時代を見る目 96 学ぶ意欲を育てる道標に

荒川 雅夫
福音伝道教団 前橋キリスト教会 牧師

 最近、文部科学省が、若者の学ぶ意欲を引き出そうと「教室に、成功を修めてこられた宇宙飛行士などを招き、直にふれてもらう教育を始める」とトップニュースで報じていました。学ぶ意欲のない子どもにどうやって意欲をもたせるか、そこに壮大ですばらしい実験が始まるような思いがしました。また青年の労働への意欲も、以前とは大きく変化しています。この大切な勤労意欲の欠如も同根といえるでしょう。豊かな時代に育てられた結果、勤労や社会への責任を果たせ得ずに苦しんでいるのです。

 現代はきわめて大きな変化の時代であり、それゆえにモデルのない時代といわれます。これまでの生活はガイドのいる旅行のようなもので、あちこちに道標が立っていたといえます。しかし、これからは新たな価値観を創造できなければならない、そんな時代を迎えているのではないでしょうか。その中核が学ぶ意欲、生きる意欲ということでしょう。

 大村はま先生は、教育家としてたくさんの教師を育ててこられましたが、著書『教えるということ』(共文社刊)で、子どもが両親や先生を尊敬するようになる秘訣を以下のように述べています。「子どもは成長する存在であり、たくさんの知識をもって教える人よりも、絶えず謙虚に学んでいる人に心を動かされ、尊敬するものだ。」

 青年時代に出会った本の中で、ビリー・グラハムの『世界は燃えている』(いのちのことば社刊)があります。ページを開くごとに時代への目が開かれ、福音の感動があふれてきたのを昨日のことのように思い起こします。先輩の牧師が「たとえ貧しい牧師の書斎であっても、学ぶ思いさえあればたくさんの恵みを汲み取ることができるものだ。どんな書物でも著者が精魂を傾けて書いたものだから、そこに目を開けば必ず収穫がたくさんある」と教えていただいたことがあります。それ以来、どんな本に対しても敬意を払って読もうとするようになりました。本に向かう小さな、しかし大事なヒントを手に入れたような気がしています。

 若者に本を読むよう求める前に、自分自身が本を読むことを楽しみ、生きる目標を深めて、道標のような読み方をしたいと考えている毎日です。