295 時代を見る眼 発達障害を知る [1] 発達障害バブル ―過剰診断VS過小診断―

臨床心理士・公認心理師 森 マミ

昨今「発達障害」はテレビでも頻繁に取り上げられ、出版物の刊行も後を絶ちません。発達障害の人はそんなに増えたのでしょうか。
増えてはいないという方の多くは、「昔は発達に凸凹がある子どもを社会が上手く抱えていたが、今は社会が変化したので表面化した」と言います。また、「生きづらさを発達障害という理由によって納得したいと自ら積極的に診断を求める人もいる」ようです。
疑いがあるだけで詳細を考慮せず、早急に診断や薬を出す「過剰診断」。疑いがあるにもかかわらず症状や問題を見逃してしまう「過小診断」。
「発達障害バブルは、医療業界によって意図的に仕組まれた」と主張する方たちは、この「過剰診断」には反対の立場です。
一方、「過小診断」に問題を感じる立場の方は、幼少期あるいは思春期から発達障害ゆえの困り感を抱え、医療機関等に助けを求めたのですが、適切な診断や助言が得られず、問題が重篤化・深刻化して苦しんだ人たちです。
この立場の人も、決して過剰診断を肯定しているわけではありませんし、「発達障害は増えている」という断定的な声を発しているわけではありません。これらの人たちにとっては、発達障害を専門とする医師を増やすことが急務なのです。
発達障害の原因について、「発達障害は『多因子疾患』であり、複数の関連遺伝子と胎児期から出産後の環境要因などが複雑に関与しあって生じるもの」(日本発達心理学会編『発達心理学事典』2013年、丸善出版)だという視点は、発達障害は増えたのかという問いに対しても示唆を与えてくれます。
「発達障害者支援法」(2005年)が施行されたときには、その原因は「脳の機能障害」だとされました。親の育て方が悪いわけでも、本人の努力不足でもない、という点を強調するための原因論だったともいわれます。
同時に、原因は脳にあるのだから治らないと理解されていたように思います。しかし、原因はまだ解明されていないというのが現実です。
発達障害を、まだ解明されていない医学的な点から注目するより、生活につまずきが現れる「生活障害」と見て、生活を改善するために工夫をしていこうとする立場もあります。「発達障害バブル」といわれるこの時代に、自分の周囲の困っている人のために、自分にできることから始めたい、まずは「知る」こと、困っている人を「仲間」として「見つめる」ことから。