定年後の暮らしに備えがありますか 第5回 勇気を持ってもう一歩

田口誠弘
熟年いきいき会 代表

著者・田口誠弘氏
42歳の時、社内紛争のあおりを受けて左遷・降格。挫折をきっかけに、社員教育、マネージメントの専門家の道を目指す。
バブル崩壊で大損したことがきっかけで1994年、55歳で受洗。現在、有料老人ホーム・コンサルタント、地域での「無料相談」コンサルタント兼カウンセラー。豊かな熟年ライフをサポートするグループ「熟年いきいき会」を立ち上げ、代表となる。
NPOふれあいアカデミー情報ネットワーク担当理事。
ホーリネス・池の上教会員。67歳。
 現代の教会は内側と外側からゆさぶりを受けています。外からのゆさぶりには自由主義、個人主義、乱れる一方の性道徳、物質主義、金銭万能主義などの思想的風潮があります。

 内からのゆさぶりは教会員の多様な価値観のぶつかりあいだといえます。教会の中においても能力、社会的地位、信仰暦の長短、性格、男女、年齢の違いや差などが、さまざまな問題を引き起こします。そういった教会内の問題に取り組み、教会内部に重荷を持つ教会にとって、幅を広げ、外へ向かって活動することは難しいことかもしれません。しかし迷える魂が充満している現代社会では、主に守られていることを信じて、もう一歩外へ出ていただきたいと思います。

 現在、非営利団体などが進めている活動(生涯教育、交流・コミュニティー作り、人間関係や個人の悩み相談、心身の健康相談、社会福祉、バザー、いやし、カウンセリングなど)はかつては、教会がやっていたのではないかと考えています。

 教会にも現代的な問題(自殺、いじめ、孤独、ひきこもり、介護、夫婦・親子関係など)に正面から取り組む機能も備える必要があるのではないでしょうか。

どのような問題があるのか

 今、世の中は大きく乱れています。その原因としてたくさんのことが考えられます。

 世界、特に経済社会はグローバル競争の時代を驀進しています。このスピードと競争の狭間で、人は多くのストレスや敗北感にさいなまれ、そして孤独になっています。

 人はだれでも孤独でさびしい面を持っています。それを一時的に解消しようとして、快楽や不品行におちいっている人が多くいます。援助交際のリストには医者、弁護士、学校の先生、会社社長の名前が多いと聞きます。私のところにも迷惑メールが、これでもかこれでもかと、あの手この手で誘いかけてきます。利用者がいて、うまみがあるからこんなに繁盛しているのでしょう。排除しても次々と送り込んできて、悲鳴をあげたいくらいです。現実に誘惑に乗り、臍を噛む人もいるでしょう。

 また、他人を押しのけても欲望を満たすために犯罪や違法行為に走る人たちもいます。ホリエモンや村上ファンドなどもその一端かもしれません。しかし、二人とも逮捕されました。これを、すべてつかさどり、今も生きて働く神様からのメッセージととらえることもできるでしょう。

 現代社会は、知力、腕力、経済力、権力、武力、策略によって他人を威圧して、己の利得をはかろうとする力で満ちています。しかし、物質的な利得や性的な欲望に生活をゆだねると大きな罰を受け、自分自身も傷きます。

 私自身もそうでした。経済力がすべてだと考えていました。そしてバブル崩壊の二年前にマンション投資に手を出し、一億の負債を背負い込みました。そのため危うく家族が崩壊し、自殺をはかる寸前まで追い込まれました。

 しかし、この苦しみの中でイエス・キリストを受け入れ、金銭を第一にする生きかたを悔い改めて救われました。私の知人の三十代の女性は、妻子ある年上の男性と深い関係を持ち、妊娠しました。やむなく堕胎しましたが、そのことが心の傷になって長い間苦しんでいました。この方もイエス・キリストに自分の罪を告白して悔い改めて救われました。

 現在の乱れた世の中は、目に見えるが長くは続かない物質的な繁栄に目を奪われ、見えないけれども人間の生きる根源をつかさどる永遠の神の存在を無視することから成っています。物質的な面がよくても、愛のない関係はいつか破綻します。しかし、長い間、この経済社会の中で働いてきたビジネスマンたちは、そのような価値観からなかなか逃れることができません。

 もっと多くの人が神の存在を受け入れ、神が存在するという前提で生きるとき、彼ら自身が解放され、またこの世界が住みよい世界へ変えられていくのではないでしょうか。ですから、私たちクリスチャンは教会を中心として、多くのビジネスマンたちに、もっと積極的に福音を伝える使命があると思います。

壮年に伝えるために壮年が語る

 では、社会で働くまたは働いてきたビジネスマンたちに、どのようにして福音を届けることができるでしょうか。教会が壮年にアプローチする方向のひとつとして、牧師先生よりも同世代のクリスチャンが、家庭、職場、社会に頻発する身近で新鮮な事件を引用してイエス・キリストの福音を証しする必要があります。定年を迎える人びとには、定年をすでに迎えた人、もしくは定年を間近にしている人が語るのがベストでしょう。個人的にするだけでなく、たとえば、社会問題を取り上げ、参加者とともに解決の糸口を見つけ出すなど、教会のイベントを年三、四回ほど定期的に持つことはできないものでしょうか。

 説教ではなく、講演会かフォーラム形式で、家庭、職場、社会に毎日発生する問題への対処を聖書はどう教えているか、ひとりの信徒である壮年が発題したり、ノンクリスチャンと語り合う機会がもっと多く必要です。

インターナショナルVIPクラブとの連携

 壮年を導き、壮年が活躍するためのひとつの方法として、インターナショナルVIPクラブと教会との連携も現実的で、効果的です。

 VIPクラブとは、聖書に世界観・価値観を求め、ビジネスパーソンや専門職同士の交流の輪を広げて相互の理解を深めることを目的とした会員制のクラブで、クリスチャンのビジネスマンが中心となって、日本国内だけではなく、世界中に拠点を置いて展開しています。ビジネスマンが、ビジネスマンの言葉でその人生を語り、福音を伝えています。そして、下の表にもあるように、教会とはちがったアプローチでノンクリスチャンにとのかかわりを持っています。

 教会がVIPの会員を証し人として教会へ招き、定年を迎えた方や定年を間近にした方を対象にした集会などを企画することもよいかもしれません。また、VIPと教会が連携すれば、各所において定期的に開催されているVIP会合に参加したノンクリスチャンを、地域教会の礼拝に参加するよう促すことも組織的にできるようになるかもしれません。


 次回は最終回になりますが、すでに定年を迎えた私自身がどのようなアプローチで証しし福音を伝えているのが、具体的に紹介したいと思います。