ブック・レビュー 『憎み続ける苦しみから人生を取り戻した人々の物語』

『憎み続ける苦しみから人生を取り戻した人々の物語』
徳永 大
日本福音キリスト教会連合 門戸聖書教会 牧師

「赦し」という奇跡への招き

 『憎み続ける苦しみから人生を取り戻した人々の物語』――何と長く、重く、しかし輝かしい題名だろう――この本を手にしたとき、そう思いました。けれども本書に記されたひとつひとつの「物語」はさらに長く・重く・輝かしい。一読後、この魂の記録にこの題名をつけた方の気持ちがわかる気がしました。

 本書に登場するのは、愛する家族を殺された人、幼児虐待を受けた人、配偶者や信頼している友人に手ひどく裏切られた人です。心の奥底にいやしがたい深手を負い、憎しみの暗黒に放り込まれた人たちばかりです。ただ、その闇の中に留まることをせず、「赦す」ことによってそこから脱出し、光の中に生還した人たちなのです。著者は時間をかけて、こうした人々と向かい合い、彼らの死と復活の「物語」を聞き取ります。そしてそのまま私たちの前に差し出されているのです。

 読み進むにつれ、一つのことに気づかされるよう思います。「赦し」は奇跡なのだ、と。拳銃で撃たれ、全身麻痺となりながらも、犯人の少年を赦した警官に著者は尋ねています。赦すためには激しい内面の闘いがあったのでしょうね。それに対し彼は、こう言ったそうです。「それは贈り物だった」と。

 私たちキリスト者は自らを「赦された罪人」と形容しますが、それはまさに、御子を殺した犯罪者である私たちを、神が無条件で赦し、「子としてくださる」という、考えられない奇跡の上に成り立つ形容なのだということに、改めて気づかされたように思います。

「赦し」という奇跡は「赦される」という奇跡からしか生まれてこない。声高にではありませんが、著者は、彼らの魂の告白を通して、私たちを真の自由へと導くこのみことばに招いているように思います。「赦しなさい。七を七十倍するほどに!」

 憎しみが世界の空を覆おうとしている今という時代に、大切な一冊であると信じます。