特集 表現することの恵み 伝える喜び 描く幸せ、伝える喜び
芸術の秋に二人のアーティストを取り上げる。それぞれにアニバーサリーを迎える画家のホンダマモルさん、シンガーソングライターの福原タカヨシさんに、ご自身の活動のこれまでとこれからを語っていただく。
画家 ホンダマモル
絵とことば
私は画家として活動を始めて十年目を迎えました。年間三回の作品展示会「ヒトリコテン」を開催し、新作絵画を発表し続けています。
日々考えることは、何を描こうかと絵のことばかりです。着想の過程は様々。聖書、詩集や本、散歩中、夢の中から、人との何気ない会話の中にもヒントが。いろいろな状況の中から「これを描きたい」と絵のアイデアが生まれます。
作品の多くに詩(ことば)を添え、絵とことばの両方で表現することを大切にしています。絵では伝えきれないことを「ことば」が伝えてくれ、「ことば」だけでは見えない世界を絵が表現してくれます。絵とことばが重なり合って生まれてくるものがあります。
それでも、私が描く絵は「この絵はこのような意味がある」と限定せず、見る人が自由な発想で想像を膨らませてもらいたいと願っています。展示会に訪れる方々が、それぞれの経験や、日々の中で思うこと、嬉しいこと、つらいこと、様々な感情の中で絵を通して思い巡らしていただけたらと願っています。
絵を見ること
私は高校三年生の時に、美術を学ぶために予備校に通い始めました。とにかく絵が上手くなりたくて、絵を描くことに熱中していました。描くことは大切な学びであり、技術の向上に不可欠です。そして同時に、絵をたくさん「見る」ことも大事なことだと思っています。他の人が描いた絵をよく観察することで、自分の内にはない世界を発見します。そこに驚きや感動があります。
私は美術館で興味のある展示があれば、なるべく足を運んで原画を見に行きます。なぜかというと、原画からその画家の人生を垣間見ることができるからです。多くの美術館の展示では、その画家の生涯や生い立ちが紹介されます。その画家がどのような人物で、どのような時代を生き、どのような思いでその絵を描いたのかを知ることができます。絵に近づいて筆跡を見たり、離れて絵の全体を眺めたりする時に、画家の人生に触れることができる気がします。そのような体験をすることに、私の胸はときめき、心が躍るのです。
絵を描く意味
私は十年前に鬱でしばらく床に伏していました。薬の副作用もあり、苦しい日々を過ごしましたが、病を経て、絵を描くようになりました。
自分の感じた苦しみや痛み、その中から力をいただいた聖書の箇所、そして実感した神様の愛。そのような思いを絵で表現するようになったのでした。
毎日、私は絵を描き続けました。絵を描く時間は、自分の心の中を見つめる時であり、神様のことを思う時でもあります。まるでそれは祈りのようです。絵を描く中で、私は少しずつ病が癒やされていったのでした。
初めての展示会「ヒトリコテン」を開催した時、多くの方が私の絵を見て慰められた、励ましをもらった、共感したと言ってくださいました。私にとってそれは大きな驚きでした。私が描いた絵を通して、人生の喜び、悲しみ、苦しみ、その中に注がれる神様の慰めを伝えることができるのなら、絵を描き続けることの意味があるのかもしれない。絵を描くことで癒やされた自分が、絵を通してだれかの役に立つことができるのなら、なんと幸せなことなのだろう。そのようにして、私は画家として生きる道へ導かれていきました。
展示会「ヒトリコテン」
私は展示会「ヒトリコテン」を開催することを、自分にとって最も大切な活動として位置付けています。「ヒトリコテン」を開催するために、私は絵を描き続けています。
「ヒトリコテン」の開催日の前日に搬入をします。ギャラリー内に絵を飾り終え、あらためて自分が描いた絵を眺める時を持つことが私の密かな楽しみです。一つ一つの絵を見ながら、自分がどのような思いを込めてその絵を描いたのか振り返ります。生きる日々は決して楽しいことばかりではなく、苦しいこともあります。その日々の中で生まれた絵には、やはり特別な感情が込められています。
「ヒトリコテン」は私にとって、多くの方々との出会いの時でもあります。新しい出会いもあれば、半年ぶり、または懐かしい再会もあります。皆さんは、いろいろな日を過ごしながら「ヒトリコテン」に来てくださいます。何気ない話で笑い合い、嬉しい報告や、時に涙が出てしまうようなお話を聞くこともあります。
そのような中で、私の絵がだれかの喜びや、何かの慰めになるのなら、とても嬉しく思います。「ヒトリコテン」が、そのような絵との出会いの時になればと祈りつつ。
伝える喜び
ここ数年、私は教会や様々な場所からお招きいただき、作品の展示や絵にまつわるお話をする講演の機会が増えてきました。絵の解説をしたり、私の人生に神様がしてくださった恵みをお話したり。このような機会が与えられるとは、当初は想像もしていませんでした。
冒頭でも触れましたが、私の作品は絵とことばがセットになっています。そして最近では、私自身が口でお話する機会が加わり、新しく与えられる出会いの感謝と、伝えることの喜びが増し加わっています。熱心に私の話に耳を傾けてくださる方々のお姿に、私自身が感動しています。
このたび、いのちのことば社から『ホンダマモル作品集ヒトリ、コテン』が出版されます。この本は、私の絵とことばと、そしてなぜ絵を描くようになったのか、絵に込められた思いがエッセイとしてまとめられています。
原稿を作成している中で、あらためて自分の人生を振り返る時を持つことができました。私の歩みの中にいつも主が共にいてくださり、どれほどの恵みを注いでくださっているのかを実感する時になりました。書籍という形で、絵とことばをお届けできること、皆さんと神様の恵みを分かち合うことができることを、とても幸せに思います。
私はこれからも絵を描き続け、展示会「ヒトリコテン」を開催し続けていきたいと願っています。この小さな活動にご声援をいただけたら、この上もない幸いです。そして、いつかの「ヒトリコテン」で、これを読んでくださっているあなたにお会いできることを夢見ています。
新刊
『ホンダマモル作品集ヒトリ、コテン』

A5変型判・128頁定価2,420円(税込)
フォレストブックス
「だれでもヒトリ、コテンと倒れ、立ち上がることのできない時がある」―
そんな「コテン」の時期を経た著者が紡ぐ、あたたかな絵とことばたち。ホンダマモルの世界が詰まった自身初の作品集。
