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音楽伝道者 久米小百合

『大草原の小さな家で ローラ・インガルス・ワイルダーの生涯と信仰』
スティーブン・W・ハインズ 著
中嶋典子 訳
四六判・定価2,420円(税込)
フォレストブックス

たぶん、「大草原の小さな家」という人気シリーズには、主人公ローラ・インガルスの家族や親類筋のことなら何でもござれの〝大草原上級者〟と、古き良きアメリカを映す海外ドラマとして放映されたNHKのドラマシリーズをちょくちょく観ていたという〝中級者〟と、原作も読んでいない、ドラマもじっくり観てこなかったという私のような〝初心者〟と、三者三様が存在するのではないかと思う。

そんな初心者の私でも、「大草原の小さな家」と聞いた途端すぐさまイメージできるのは、ローラ・アシュレイふうの小花柄の長いスカートに編み上げブーツ、草原の風に吹かれるロングヘアーの少女たちのシルエットだ。

それは当時まだ教会に背を向けていた私にとっては、まぶしすぎるほどの清涼感と、ちょっと悪態をつきたくなるような清く正しいプロテスタントの空気感。薄暗いライブハウスで、生意気にロックやジャズを聴いていた私には、遠い国のお話だった。

それから四十年以上が過ぎ、信仰をいただき、新たな思いで大草原の世界をのぞいてみたら、大草原トリビアとも言うべきお宝エピソードが満載! アメリカ西部開拓者たちの果てなく厳しい暮らしの現実は、オール電化生活の私たちには想像もつかない世界だし、先住民との関係は、今日では民族、人種問題を提起する難しさも含んでいる。また、ローラとローズ母娘の血と愛ゆえの葛藤など、物語執筆の裏話も興味深い。驚いたのはローラが還暦を過ぎてから物語を書き始め、すでに編集者で物書きでもあったローズの協力を得ながら、あの名作が生まれたということ。

こんなふうにいくつものカラフルなストーリーを、作者のS・W・ハインズは掘り下げてくれた。最後に賛美歌とお菓子づくりが大好きな人に朗報! ローラたちが父さんのバイオリンに乗せて歌った数々の賛美歌と、クラシックなアメリカンケーキやピクルスの当時のままのレシピも必見! コレ、確実に太るけど、コロナ禍が長引く今だからこそ、ギスギスした毎日を甘いケーキでブレイクするのもいいかも、ですね。