CD Review ◆ CD評 『星野富弘詩による歌曲集 二番目に言いたいこと』

『星野富弘詩による歌曲集 二番目に言いたいこと』
島塚 光
上野学園大学元教授

光と風のうた

 これはまさに光と風の饗宴だ。花の香りをいっぱいに爽やかな風が吹き、黄金色の光が天空から降りそそぐ。

 星野富弘さんの詩に触発された声楽家の西由起子さんがそれを歌いたいと願い、作曲家のなかにしあかねさんの手によって完成された歌曲集という。

 星野富弘さんは独特の優しく親しみやすい絵と詩によってよく知られた人である。自然の花々や人の心に顕された神の御摂理を歌い上げる。そしてそこでは感性豊かに日々の心の動きをとらえ、爽やかな詩情をもってメッセージを伝える。根底にはイエスへの信頼と愛が流れる。

 選ばれた七首の詩は、いつだったか~たんぽぽ/一日は白い紙~秋のあじさい/山に行こう~ふしぐろせんのう/よろこびが集まったよりも~きく/いちじくの木の下/今日も一つ~日日草/二番目に言いたいこと~むらさきつゆくさ、の表題を持ち、それぞれ独立した詩である。

 これらに対するなかにしさんの曲付けは、まず長音階を基調としていて明るい。そして旋律は日本語の陰影を巧みに増幅させながら大胆に飛翔させる。それは明快な語り口となり、同時にメロディックな叙情ともなって快い。これを彩るピアノパートは華麗に動き回る分散和音、荘重な和音、コミカルなスタッカートなど、詩の赴きに従って自在に変化させ、独立性の高い動きをもって旋律と協奏する。彼女の作曲は調性を保ちながら、あくまでも星野富弘の詩に寄り添い、恣意的な世界へ引き込む事なく、洗練された音楽世界を築き上げている所がすばらしい。

 西さんのリリックソプラノは力が抜けて全てが透明な響きとなっている。また彼女の歌に対する素晴らしい感性がその詩と音楽の機微を余すところなくとらえ、軽やかで柔軟なピアノとの十全の融合を果たしている。

 心ある日本の音楽家によってこの日本の地にも新しい風は雲を揺らし、創世記第一章以来の神の恵みの光りがみやびな舞の彩りを添える。まさに至福の思いだ。