特集 刊行五十五周年 『聖書 新改訳』のことばの魅力 『聖書 新改訳』の理念、歴史、そして将来

一九七〇年の第1版刊行から五十五周年を迎える『聖書 新改訳』。改訂が継続される新改訳聖書の理念と現在の翻訳活動を紹介。また、読者の立場からは、教職者や信徒、キリスト教団体の関係者のコメントを紹介し、その翻訳の魅力の一端を紹介する。

 

新日本聖書刊行会 広報委員会

 

『聖書 新改訳』の改訂の営みを支える理念―聖書信仰の立場に立ち、原典に忠実に改訂を重ね続ける―
 
『聖書 新改訳』(以下、新改訳聖書)の翻訳・改訂作業は、次の六つの理念に基づいて行われています。
 
一.聖書信仰 聖書を誤りなき神のことばと告白する、聖書信仰の立場に立つ。 
二.委員会訳 特定の神学的立場を反映する訳出を避け、言語的な妥当性を尊重する委員会訳である。 
三.原典に忠実 ヘブル語およびギリシア語本文への安易な修正を避け、原典に忠実な翻訳をする。
四.文学類型 行き過ぎた意訳や敷衍訳ではなく、それぞれの文学類型(歴史、法律、預言、詩歌、ことわざ、書簡等)に相応しいものとする。 
五.時代に適応 その時代の日本語に相応しい訳出を目指す。 
六.今後も改訂 聖書研究の進展や日本語の変化に伴う必要な改訂を行う。
 
これらの理念に基づいて翻訳された新改訳聖書は、刊行以来、同じ理念に基づいて改訂が続けられています。福音主義の立場に立つ旧約・新約の学者と日本語の専門家が日常的に連携し、継続的に作業に取り組んでいます。
一般に、聖書翻訳は一度完成するとプロジェクトが終了し、翻訳チームも解散することが多くあります。しかし新改訳聖書は、従事者の育成と継承を重視し、絶えることなく改訂作業を続けています。この営みは、新たな翻訳を一から作り出すのではなく、先人たちの研鑽により練り上げられた訳文を尊重しながら、必要に応じて適切な改訂を重ねていく営みです。
このような体制を維持することにより、聖書研究の進展や日本語の変化に対応しつつ、より良い翻訳を提供し続けることが可能になります。
聖書信仰の立場に立ち、原典に忠実に改訂を重ね続ける。それが新改訳聖書の根幹にある理念です。
 
『聖書 新改訳』の歩み―第1版から第3版まで、そして2017の大改訂へ―
 
新改訳聖書を刊行した新改訳聖書刊行会は、一九六一年に設立されました。これは、聖書の十全霊感を信じ、より原典に忠実な翻訳を求めた諸教会の祈りと協力によって始まった働きでした。
そして、八年六か月におよぶ翻訳作業の末、一九七〇年に『聖書 新改訳』第1版が刊行されました。いのちのことば社が編集作業に協力し、出版・頒布を担当しました。
その後、改訂作業が行われ、一九七八年に第2版、二〇〇三年に第3版が刊行され、二〇〇九年からは新日本聖書刊行会がその働きを引き継ぎました。そして二〇一七年には、『聖書 新改訳2017』が刊行されました。これは従来とは異なる全面的な改訂作業を経たもので、新改訳聖書にとって初の大改訂となるものでした。
第1版の刊行から今日まで、新改訳聖書は五十五年の歴史を重ねてきました。その間、厳しい試練に直面することもありました。しかし、「聖書は誤りなき神のことば」と信じる福音主義に立つ諸教会、諸教派、諸団体、そして多くの方々からの祈りと支援に支えられ、この働きは絶えることなく続けられてきました。そして、原典に忠実な翻訳を目指して尽力した翻訳者や従事者たちの祈りと願いは、次の世代、さらにはその先の世代へと引き継がれています。
神の恵みによって支えられてきた新改訳聖書の歩みと、先人たちの祈りと献身を覚えつつ、この働きが今後も「教会のわざ」として祈りのうちに継続されていくことを願っています。
 
『聖書 新改訳』のこれから―積み重ねられた知見から生み出される新たな価値―
 
新改訳聖書の営みは、継続的な改訂作業の営みです。多くの祈りと献身の中で生み出された訳文を尊重しつつ、適切な改訂を重ねていくものです。そのために、従事者たちは日々、研究と議論を重ねています。
新日本聖書刊行会では、こうした知見を有機的に記録・活用するためのデータベースを独自に開発しました。このデータベースには、原文、訳文、ルビ、段落情報、欄外情報、各種会議における審議内容、読者からの質問など、改訂作業に必要な情報が漏れなく蓄積されています。
たとえば、新改訳聖書は全体で三一一六六節ありますが、それぞれの節に対する過去のすべての改訂案(合計で百万件以上)が記録され、次の改訂のために活用されています。オンラインによる遠隔作業も可能で、数十人の従事者が同時に改訂案や改訂理由を書き込み、意見交換を行うこともあります。これらの情報は書き込み日時や内容に基づいて自動的に整理され、改訂作業が円滑に進められる仕組みになっています。
このように蓄積された情報は、新たな価値を生み出す可能性を秘めています。今後、次のような成果を読者の皆様にお届けすることを目指しています。
 
・簡易注釈付き新改訳聖書
実際に改訂作業に携わった翻訳者たちによる注釈が付された聖書です。みことばのより深い理解に役立つことでしょう。
 
・インターリニア聖書(対訳聖書)
原文と新改訳聖書の訳文を節ごとに併記したものです。原文と訳文を対照しながら読むことで、教職者や原文に関心のある読者にとって有益な学びの資料となります。
 
・コンコーダンス(聖書語句索引辞典)
原典または新改訳聖書で使用されている語句の使用頻度、使用箇所、文脈を調べることができる辞典です。上記のデータベースを活用することで、電子媒体での提供を視野に入れています。
 
これらの資料は、みことばをより深く味わいたいと願う方々にとって有益なものとなるでしょう。第1版の刊行から五十五年に亘って改訂を重ねてきた新改訳聖書。その歩みの中から生まれた知見を多くの方々に届けていくことが、私たち従事者の願いです。今後も、祈りつつ取り組んでまいります。
 
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