書評books 「人生の冬」を 心豊かに生きるために
翻訳者 中嶋典子
『年を取るレッスン』
結城いづみ 著
B6変型判・160頁
定価1,430円(税込)
いのちのことば社
還暦を過ぎ、いよいよ人生も終盤に差しかかりました。若い頃は何をしても疲れ知らずでしたが、今や数時間パソコンに向かうだけで目はかすみ、一日歩き回ると膝に痛みを覚えるように。夫との会話に「アレ」ということばがやたらと登場するようになり、用があって二階に駆け上がったとたん何をしに来たのかを忘れ、唖然とすることも……。
老いがひたひたと迫り、ちょっぴり不安を感じる私世代にとって、『年を取るレッスン』は、ポール・トゥルニエ(スイスの精神科医)が示すところの「人生における冬の季節」を、希望を失わず心豊かに生きるためのすぐれた指南書です。
本書は、「百万人の福音」(二〇二四年一~十二月号)に連載され大好評であった同題のエッセイを、永久保存版として一冊にまとめたものです。書籍化に伴い大幅に加筆されているので、連載当初からこのエッセイのファンでいらした方々にとっては嬉しいかぎりですね。
著者の結城いづみさんは、現在八十五歳。牧師夫人として神と教会に長く仕えてこられた方です。このエッセイを綴り始めたのは、強い痛みを伴う病からやっと抜け出した頃であったとか。老いの辛さを十二分にご存じの結城さんですが、その文章に悲壮感はなく、静かな喜び、安心感、温かいユーモア、ご自身や周りの方々への深い愛情を感じます。結城さんが、弱さも含めご自身を丸ごとありのまま受容しておられるからでしょう。それは、やがて最期を迎えるその時まで神が慈しみ支えたもうことへの、確かな信頼から来るのだと思います。その信頼は一朝一夕で身につくものではなく、日々主の御前に静まる習慣を欠かすことなく守ってこられたことによります。
老いへの恐れが頭をもたげたときは繰り返し本書を開き、少し先を歩む先輩のことばに勇気を得たいと思います。今まさに老年期を歩んでいる方、その入り口に立つ方、身近にいる高齢者を支えたいと願う若い方、すべての年代にお薦めの一冊です。