特集 戦争は決して昔話ではなく、あなたの人生に起こりうる
広島の爆心地で被爆し、原爆症を抱えながら69歳で語り部となった居森清子さん。夫・公照さんは、清子さんの死後、妻の遺志をついで活動を継続し、2018年に夫婦の歩みとして本にまとめました。この本は、図や写真を駆使し、「戦争が人生をどう変えるのか」を実体験から伝える貴重な内容。以下に、本の冒頭の文章をご紹介します。
二〇一六年春、私の妻・清子が息を引き取りました。八十二年の生涯でした。清子の人生は、苦労の多いものだったと思います。太平洋戦争前の広島に生まれ、一九四五年八月六日、あの原子爆弾に遭いました。爆心地から三百五十メートルの所にある本川国民学校で被爆し、同校で唯一の児童の生存者となりました。その時から、清子の人生は一変しました。両親を原爆で亡くし、多感な時期を、たった一人で生き抜かなくてはなりませんでした。どんなにか孤独だったことでしょう。
清子が三十歳の時、私たちは出会いました。私は清子の過去と苦労を知り、これからの清子の人生が幸せなものになればいい、そうしてみせると、誓っての結婚でした。
結婚生活は、慌ただしくも順調でした。その日その日を一生懸命生き、そのまま何事もなければ、二人して穏やかな人生を閉じるはずでした。しかし、戦争の愚かさ、原爆の恐ろしさが、それを許しませんでした。清子は、五十代以降、被爆の影響と思われる病気を立て続けに発症し、最後まで病と闘い続けました。傍らで見ていて、それはつらい闘病だったと思います。
それでも、清子は負けませんでした。六十九歳から十数年にわたり、病と闘いながら、自分の体験をもとに平和の大切さを訴える活動に取り組みました。私は、五十二年の結婚生活を通して、妻の被爆体験を聞き、原爆症の苦しみと核兵器の破壊力を身をもって感じ、そして清子と共に、平和への願いを強くしてきました。清子は最後は、私の介護を受けながら「今がいちばん幸せ」と言ってくれましたので、「幸せにする」という結婚当初の約束を、少しは果たせたのかと思っています。
そして、私は清子ともう一つの約束をしました。それは、清子との生活で感じたこと、平和への願いを、命ある限り伝えていくことです。
清子や私の人生の初期に起き、大人になった頃には既に過去になったはずの戦争が、私たち夫婦の人生の後半にまでどんな影響を及ぼしたかを、今、みなさんにお伝えしたいと思います。戦争は決して「過去の出来事」ではなく、一人一人の人生に起こりうること、そして、それが一度起きれば、どのようなことが降りかかるのか。読者の方々に追体験していただき、平和の「有り難さ」を感じてくだされば幸いです。
『もしも人生に戦争が起こったら~ヒロシマを知るある夫婦の願い』(居森公照、いちのことば社)二~三頁より
『もしも人生に戦争が起こったら~ヒロシマを知るある夫婦の願い』
居森公照 著
四六判・定価1,540円(税込)
フォレストブックス