特集 受け継いだレガシーを大切に手渡したい
豊田かな
「お母さん、きたよ。読んでいい?」
牧師家庭で育った私が小・中学生だった一九七〇~八〇年代。我が家に届く月刊誌といえば「百万人の福音」くらい。ワクワクしながら封を開けたのを覚えている。
巻頭を飾る星野富弘さんの花の絵と添えられた詩は、じんわりと心に沁みてきた。私が理解できたのは「証し」のページ。毎月身近な人以外の救いの体験に出会う。
「神様ってすごい、どこにでもおられるんだ」
いつしか確信に変わっていったような気がする。
「お母さんたち、あの頃読んでいてどうだった?」
「本当に励まされたわ……」
母が感慨深げに語ってくれた。
両親が赴任した地域は、当時陸の孤島と言われ、因習の根強い厳しい環境での伝道は苦労が多かった。都会で行われる素晴らしい大会に参加して心が燃やされても、帰り道、車に吹き付ける吹雪で視界が奪われるにつれ、二人の気持ちが一気に重たくなったこともあったという。
そんななか、「百万人の福音」で紹介されている教会や伝道活動の記事を読むと、「私たちだけじゃない。もう少し頑張ろう」と、何度も何度も励まされたらしい。
「百万人の福音」は、全てのクリスチャンを励ますだけでなく、 伝道の働きに携わる人々に寄り添ってもきたのだ。そう思うと、感謝の気持ちでいっぱいになる。
二〇二一年一月、この歴史あるキリスト教の月刊誌に、我が家にとってちょっとしたサプライズがあった。私の連載が始まったのだ。そして、「怒る夫」という内容で、彼の〝ほろ苦いエピソード”を明かしてしまった。
「今は優しい夫なのだから、まあいいか」
正直に分かち合った連載の内容が、いろんな意味でインパクトを与えてしまった。小さな頃から親しんできた「証し」のつもりだったのだけど。
不安になっていたなかで、その連載を父がとても喜んでくれた。感想と、そして解説までしてくれた。嬉しかった。
二年目も連載の依頼をいただき、その後一冊にまとめられて、『今日も新しい私に袖を通す』(二〇二三年)が生まれた。
神様が私の人生にしてくださった恵みは、大きくて深く、うまく語ることができない。でも、書くことで少しずつ表現できるようになった。
「今までモヤっとしていたことが、スッキリしました」と言ってくださる方もいる。
これからも言葉に乗せて心にあるものを形にして届けたい。受け継いだレガシーを、次の世代に大切に手渡していきたいと願う。