特集 名著を読み継ぐ

 時を超え、読み継がれる信仰の名著・良書。そこに綴られた「いのちのことば」は、読む人と力づけ、困難な人生の友となる。名著と出合う喜び、読み継ぐ恵みを味わいたい。


亡き夫の本棚からもらった勇気

聖書神学舎講師、日本同盟基督教団支援教師 遠藤芳子(よしこ)

遺言のように

 主人(編集部注・遠藤嘉信牧師)は天に召される少し前、私にこんなことを言いました。
 「遠藤がどんな人物だったか、などということは、何も言わなくていい。ただ、遠藤が何を語っていたか、そのメッセージだけが残ってくれれば……」
 そのことばは、私にとって、遺言のように響きました。
 四十六歳でALS(筋萎縮性側索硬化症)との診断を受けた時、主人は、
「まだまだ、これからと思ってたのになあ」と残念そうに言いつつも、急に目前に迫ってきたゴールを見据え、懸命に説教準備に取り組んでいました。
 次第に動かなくなっていく指を一本ずつ吊り下げる装具を作ってもらったり、音声入力を試みたり、あらゆる工夫をして、次々と襲ってくる症状に対処しようとするのですが、病気の進行はあまりに早く、一か月も経たないうちに、それらも使えなくなるのでした。

最期まで書き続けて

 ついに自力での呼吸が苦しくなり、呼吸器のマスクが必要になりました。最後となった説教の日、もちろんそれが最後の説教となるとは予想していませんでしたが、主人は、「初めだけ話すから、あとは説教を代読してくれ」と言って、私に原稿を渡していました。
 すぐ隣で今か今かと待機する私をよそに、主人は無謀にも呼吸器を外したまま最後まで語り続け、その後呼吸困難に陥ってしまいました。医師から、「説教はもう無理です」と言われ、さすがの主人も、その時ばかりはがっくりと首を垂れて、本当につらそうでした。
 生涯の使命としていたみことばの説教ができなくなった主人は、それでも、たった一本だけかろうじて動く左手の人差し指で、ベッドの上に置いた特製の小さなスイッチをクリックして、最期の最期まで自分の説教集『初めに、神が』のあとがきを書いていました。
 診断から一年二か月、主人は「あとは、頼む」と言って、天国に移されていきました。

「消え去ることはありません」

 人というのは、残念ながら、限りある存在です。そして、人が一生の間にできることも、本当に限られています。しかし、たとえ人が束の間の人生を終えたとしても、神のことばがその人を通して語られるなら、その神のことばは、残ります。その人が地上にいなくなったあとも、神のことばは生きて働きます。
もしそれが、人のことばならば、無力です。それは時代とともに移り変わり、いつか消えていくでしょう。しかし神のことばは、決して変わることがありません。なぜなら、神は永遠から永遠まで不変のお方だからです。「天地が消え去るまで、律法の一点一画も決して消え去ることはありません」(マタイ5・18)と、主は言われました。
人は、それぞれ異なる賜物、異なる環境を、神から与えられています。ですから、それぞれの人生経験の中で、その人でなければ紡ぎ出せないことばがあるはずです。
 それが、学問的な研究書であれ、詩や文学であれ、証しの書であれ、その固有の人生を通して説き明かされる神のことばは、私たちに大きなインパクトと感動を与えます。
 その書物を読んだ時、その著者のことがではなく、神のことがよくわかり、目の前に聖い神の姿が映し出されるとしたら、それこそが「信仰の良書」と言えるのではないかと思います。そのような良書は、私たちが自分一人では学び得ない深みから、また自分では想像し得ない角度から、神のことばのすばらしさを見せてくれます。

本棚の書物が与えてくれたもの

 私も、そのような書物のおかげで、どれほどの恵みを受けてきたかしれません。
 主人が召された頃は、私自身も進行性の筋肉の病のため車椅子で、教会と病院以外は、ほとんど自分で外に出かけていく余力はありませんでした。
 深い悲しみの中で、私は主人の本棚にあった書物を読みあさりました。信仰の先人たちが残してくれたことばは、まるで大海に溺れんばかりの心境にあった私に、神の真実を仰ぎ見させてくれました。私などとは比べものにならないほどの試練の中にありながら、ひたすら神のことばに信頼して歩み続ける信仰者のことばは、私の心に、生きる勇気を与えてくれました。すべてが移り変わるとしても、決して変わることのない神の愛と真実に支えられているのだと、実感させられていったのです。
 弱さのゆえに自由に人に会いに行くことも難しかった私にとって、自宅にいながら多くの霊的示唆を与えてくれる書物に出会えたことは、本当に大きな恵みでした。
 歴代の信仰者たちが、それぞれ神から与えられた使命に沿って書き残した良書を、これからも読み継いで、少しでも神のみむねに近づけられていきたいと、心から願っています。


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もしかすると、この時のため 際に立つエステルとその勇気 表紙

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いのちのことば社

紀元前5世紀、ペルシヤという異教的環境で存亡の危機にあったユダヤ人。しかし、その背後に”みえざる神”がおられた。富や安楽の追求、曖昧な態度を奨励する現代を、信仰者としていかに生きるべきか。エステル記からの講解説教。在庫僅少。限定復刊候補。