書評books “人生の海の嵐”へ差し出された命綱
常盤台バプテスト教会 主任牧師 友納靖史

『祈られて、がんと生きる ボクと牧師の24の往復書簡』
峰岸大介・大嶋重德 著
B6判・176頁
定価1,870円(税込)
いのちのことば社
目に涙が滲むたび、この本を閉じ、目を閉じ、しばし静まる時が流れました。闘病中、もしもの時に備え、家族へ残す愛と真実の言葉。峰岸大介さんのパッション(情熱・受難)に満ちた各書簡へ応答するため、彼の牧師として全身全霊で、永遠の愛と希望を届けようと苦闘される大嶋牧師の一言一句。
この本を読み終え、浮かんできたのは昔話「鶴の恩返し」でした。助けた人への恩返しをと、鶴は自らの羽一本一本を体から抜き取って機を織り、美しい着物を作り上げ完成すると、天へと飛び発っていく……。大介さんと牧師が紡いだ着物ならぬこの書は、愛する家族への、また神より託された地上での使命を果たし終えた証しです。
大介さんに託された使命の一つは、樋野興夫医師推奨「がん哲学外来カフェ」をご自身の教会で主催することと、全国の会が祝されることでした。そこへ来られる方が安心して集い続けるため、自身の闘病生活での赤裸々な苦悩と弱さを綴ることで、カフェへ集う方の抱える全人的苦痛に向かい合う方々が、研ぎ澄まされた心で関われるようにとのビジョンが根底にありました。カフェの原則の一つに、宗教色を出さないルールがあります。にもかかわらず、それを超える峰岸さんの知恵は「祈りの力」でした。また、ご夫婦が日々実践した「パーマンの法則」は、必読に値します。
つぶやきや呪いの言葉さえ発しても、すべてを受けとめる神の偉大な愛。その驚くべき愛の広さ、長さ、高さ、深さを探る手掛かりがこの本に詰まっています。がんでなくても、自らの人生を嘆き続けるスピリチュアルペイン(たましいの痛み)の負のループから、希望と平安に満ちた善きサイクルへ引き寄せる力と存在の大切さ。それが大嶋牧師の愛と信仰、またユーモアから学べます。
この本が大介さん愛唱の賛美「人生の海のあらしに」とともに、さまざまな病と闘う方やご家族を、平安と静けき港へと導く〝命綱〟となると信じ、感謝をもってこの本を再び閉じました。