書評books 「たとえ私たちの外なる人は衰えても、内なる人は日々新たにされています。」

社会福祉法人ミッションからしだね 理事長 坂岡隆司

 


『神さまと人の愛に包まれて 今を生きる若い人へのメッセージ』
西村 隆 著
宮本雅代 編著

B6判・定価1,650円(税込)
いのちのことば社

西村隆さんが逝って、もう一年になる。享年六十二歳。働き盛りの三十代で、全身の機能が徐々に失われていく難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症された。余命五年の宣告を受けながらも、亡くなるまで二十五年。よくここまで生き抜かれたと思う。
もっとも、隆さん(と呼ばせていただきます)の二十五年は「余命」などではなかった。「いのちの重み」を日ごとに味わっていく、まさに「たましいの旅路」であった。
いのちの期間を区切られたとき、いったい人は何を思うのだろう。生活のすべてにおいて連続する喪失体験。そんな過酷な日々を人はどう生きたらよいのか。人生の意味やいのちの価値について、どんなふうに問われ、どう答えていくのだろう。
はからずも、十万人に三人ともいわれるこの難病を生きることになった隆さん。病と共に生きたその物語は、「いのちの本質」を問う旅へと私たちを誘う。
ダウン症をもって生まれた三男、幼い止揚君とのエピソードが心に残る。
ある日、お連れ合いの雅代さんから止揚君のお守りを頼まれた隆さん。
「お願い。膝に止揚を寝かせてミルクをあげて。わたし、今、忙しいの」と雅代さん。はじめは失敗に怯えて不安に支配されていた心は、膝の上の「存在の重み」の前に解放されていく。「ずっしりと重たい止揚の鼓動、ぬくもり、そして彼の未来を確かに感じていました。……身体の奥深くから込み上げてくる熱いものが、凍りついた世界を溶かします」(三四~三五頁)。
様々なものがそぎ落とされた後に残るもの。生死を究極の底で支えるもの。それがスピリチュアリティの力だと隆さんは言う。そして、その力の基となるものこそ、西村隆さんをとらえ続けた神の愛であった。
本書には、雅代さんの手記も加わる。依りかからない旅の同行者の姿はすがすがしく、その向こうにもまた、神の愛が見える。