書評books 人間の尊厳を重んじる心を養うために
仙台聖書バプテスト教会 牧師 鈴木 茂
『イエスの福音と人間の尊厳 すべての人は例外なく価値がある』
パスカル・ズィヴィー 著
A5判・44頁
定価550円(税込)
いのちのことば社
本書は、昨年、著者であるパスカル・ズィヴィー氏が、私たちの教会で「人間の尊厳」というテーマで講演された時の原稿をもとに書かれたものです。著者はカルトから人々を救い出す働きにも従事しておられますが、そのことからも人を愛し、いつくしむ心がわかります。講演においても、著者の温かい眼差しや全身から伝わってくるものに、神と人への愛、敬意を深く感じました。
どの時代においても、人間の尊厳が踏みにじられてきました。罪によるこの負の連鎖を、神は断ち切りたいと願っておられます。旧約時代には、社会から除外されていた孤児、未亡人、外国人や寄留者たちを軽視し、粗末にする人々に対して、預言者たちを通して、神は怒りを示されました。イエスも、その天の父の変わらぬ心を言い表されました。それだけでなく、尊厳が踏みにじられた人々の友ともなられました。
人の尊厳は、最も尊ばれなければならない神からの特別な贈り物です。だれも人の尊厳を軽視したり、憎悪や侮辱によって踏みにじったりしてはならないのです。人はみな神のかたちとして造られているからです。
人の尊厳は、神の尊厳でもあります。尊厳を深く傷つけられた人の失望は、回復不可能と思われるほど大きなものです。けれども、十字架上で尊厳を無残にも踏みにじられたイエスご自身が、その傷によって、私たちを回復させてくださいます。そして、主の温かい眼差しの中で私たちは輝きを取り戻し、その主の眼差しを人々に注ぐことができるようになるのです。
人の尊厳を重んじる心は自然には形成されません。それゆえ教育される必要があります。本書の著者の父君はユダヤ人であるということで、ナチズムの支配下にあって激しい迫害を受けました。また、祖父は、アウシュヴィッツのガス室で殺害されました。本書にはそのことも記されています。人の尊厳を息子に説く父君の思いが本書に宿り、一緒になって、私たちに語っているように感じます。