書評Books 見せかけの成熟でなく

聖書宣教会・聖書神学舎校長 赤坂 泉

『インサイドアウト 魂の変革を求めて』
ラリー・クラブ 著
川島祥子 訳
四六判・定価2,750円(税込)
いのちのことば社

成熟を求める者は、外面から整えようとするのでなく、内側の最深部から着手せよ。これが書名に込められたメッセージです。
自己洞察を迫り、成熟を励ます本書は、一九八八年の初版以来、多くの人を助けてきました。クラブはカウンセラーとして心理学への過剰な依存に警鐘を鳴らしてきた臨床家です。本書でも「真摯に格闘するクリスチャンの前に、二つの選択がある」けれども、内面の問題を無視して「良い」クリスチャンを生きることも、「聖書の啓示によるのでなく、現代の心理学の理論に基づいて心の内側を探る」ことも不適当だと述べます(本文八八~八九頁)。クラブの最初の邦訳書『教会の働きとカウンセリング』(いのちのことば社、現在品切。再版切望!)とも通底する主張です。

人は、御霊とみことばと神の民という三つの「光源」に助けられて、自分の存在の核心にある無力さを直視することが重要だと言います。「感情に訴えて高揚させる礼拝、熱心な宣教の行動主義、よく構成されている回復グループ、真の共同体から抜けて専門のカウンセラーに相談すること」(三五頁)に逃げ込んで表面的に生きる安楽さを戒めます。辛辣ですが、確かに当を得ています。
見せかけの霊性、見せかけの成熟、見せかけの何かに頼る危うさを自覚しましょう。内面の恐れを直視する勇気を持ちましょう。神に向かって「命令的要求」を重ねていることはないでしょうか。未完成である現実を受け入れて御国を待望し、そんな貧しい器にも神が備えてくださる喜びを感謝しましょう。原著にはワークブックもあり、具体的な取り組みの助けになります。

真摯に福音に生きることを願いつつ、不全感や焦燥感と格闘している方々に、劇的な方向転換をもたらす可能性のある、その意味では「危険な」一冊と言えます。明快な説明を試みるあまりに、時として単純化が過ぎる場面もありますが、じっくりと読み、具体的に取り組むに値する一冊です。スリリングな読書体験が、格段の霊的成熟への手引きとなりますように。