特集 話題の本をさわり読み 支援の現場で味わう恵み
『グッド・モーニング・トゥー・ユー』公文和子著より
小児科医の公文和子さんがケニアで運営する障がい児支援施設「シロアムの園」。そこに通う少女マリアと支援スタッフとのエピソードから―
マリアはシロアムの園に来ると、みんなから「マリア、おはよう~!」と温かく迎えられます。最初の頃は、そのような歓迎にもまったく反応を示すことがありませんでしたが、そのうちに少しずつ顔に表情が現れるようになってきました。(中略)マリアが来始めてから一年ちょっと経ったある日、(中略)突然、マリアが「ふふっ」と笑ったのです!
(中略)作業療法士のバシリサは、マリアのあの時のほほえみのことを話しました。あの笑顔をまた見たいから、来年は、マリアが、もっともっと生きていることが楽しく、たくさん笑顔でいられるようにすることをリハビリの目標にしたい、と言いました。これまで、「手で物をつかめるようになる」「歩けるようになる」など「~ができるようになる」というようなことをリハビリや教育の目標にしていたスタッフは、「生きている喜びを見出す」という目標もあってもいいのだ、ということをマリアに教えてもらったのです。
(中略)三月のある金曜日、マリアの呼吸状態が悪くなり、水分を取るのも難しいくらいに弱ってしまいました。
(中略)マリアの小さなお葬式は、自宅で行われ、庭の隅に葬られました。
(中略)マリアの担任であり、お葬式の私のスピーチをマリアの部族語に通訳してくれたエリザベス先生が、「マリアのお葬式の時に、ダクタリ(私のこと)が、『ほかの人から見ると、私たちがマリアを助けているように見えるかもしれないけど、私たちのほうがそれよりも、もっとたくさんのものをマリアからいただきました』と言ったのを通訳しながら、本当にそうだと思ったんです。私たちができることなんて、ほんのちょっと。でも、私たちは子どもたちから本当にたくさんのものをいただいているなぁ、と思います」と、分かち合いをしてくれました。
(一〇〇~一〇四頁)