書評books 神のことばをより良く受け取るために

東京基督教大学 准教授 齋藤五十三

 


『みことば 聖書翻訳の研究 第4号』
新日本聖書刊行会 編

A5判・80頁
定価1,100円(税込)
いのちのことば社

 

本書は『聖書 新改訳2017』(以下、「新改訳2017」)発刊後に継続している聖書翻訳研究の成果をまとめたものである。より良い翻訳を追求するための研究が二〇二〇年以来、毎年一冊の冊子にまとめられており、今回で第4号となる。
第4号には二本の論文が掲載されている。論文と聞くと研究者が読むべきものと思われるかもしれないが、まずは手に取って読んでいただきたい。聖書言語(ヘブル語)に関する考察が丁寧に紹介されており、私たちが慣れ親しんでいる日本語聖書の背後にこうした地道な研究があることを知ると、聖書の味わいも変わってくるはずである。
最初の論文は、「新改訳2017」の旧約主任を務めた木内伸嘉氏(東京基督教大学 特別教授)執筆の「高慢」に関するヘブル語研究である。一般に「高慢」や「高ぶり」等と訳される人間の心の状態は、そうした状態を抱える人間が神のさばきの対象となるほどに聖書において重要な主題である(本書三八頁)。「高慢」に関するヘブル語の用語は主なもので七種類あるが、翻訳においては、⑴該当する用語を正確に理解すること、⑵日本語における適切な訳語を見つけること、という二つの重要課題があるという。しかも、訳語を選んでいくプロセスの背後には、実際に人生を生きている人間に対する執筆者の深い洞察があることも読み取れて、生きた神の言葉を届けようとする「翻訳者の思い」を感じ取ったことであった。
二つ目の論文は、新日本聖書刊行会の研究員を務める公文光氏と山中直義氏によるもので、出エジプト記二五―四〇章において使用される「意匠を凝らす」という独特な表現を扱った内容である。執筆者は、「新改訳2017」刊行以来、読者から寄せられている質問に答える形でこの主題を取り上げており、聖書翻訳においては読者の存在が重要であることを改めて教えられた。しかも専門的知見だけでなく、神の言葉を読者がより良く受け取ることができるようにと心を尽くす両氏の姿勢を伝える内容ともなっており、爽やかな読後感が残った。ぜひ一読をお勧めしたい。