京都のすみっこの 小さなキリスト教書店にて 第七回 私の「となり人」とは誰か?

CLCからしだね書店店長 坂岡恵

略歴
社会福祉法人ミッションからしだね、就労継続支援A・B型事業所からしだねワークス施設長。精神保健福祉士。社会福祉士。介護福祉士。2021年より、CLCからしだね書店店長。

入国管理法が改悪されようとしています。それに抗い、日本にいる難民を救おうと、反対集会やデモが日本各地で行われました。書店のスタッフも、プラカードを持って参加しました。私たちが書店を開く時に、荷物の搬入を手伝ってくださったのは、まさにその難民の方たちだったからです。
彼らは大きな書棚や重い本の入った箱を楽々と運び、後の収納作業の段取りまでよく考えて、ていねいに仕事を終えてくれました。私たちがどんなに助かったかしれません。
日本で暮らす難民の方たちと初めて会ったのは、コロナ禍で社会がピリピリしていた頃のことでした。ちょうどマスクが不足した時期で、私たちは一般家庭にある不織布マスクを集めて、病院や介護施設に届ける活動を始めていました。活動に共感してくださった方たちから多くの寄付金も集まったので、今度は医療用ガウンを手作りし、病院と介護施設に届ける活動を始めようということになりました。ガウンの作り手を探していた時に手を挙げてくださったのが、難民移住者支援をしているカトリック大阪大司教区社会活動センター・シナピスで、私たちは集まった寄付金をシナピスに提供し、難民の方たちにガウンを作ってもらうことにしたのです。
その時、シナピスのスタッフから、こんな話を聞きました。
「ここに集まってくる人たちは、さまざまな背景を持つ外国籍の人たちです。彼らの多くは母国に帰りたくても帰れません。個人の信仰や政治的な考えなどが彼らの国の方針と合わないので、帰国したらすぐに拘束され、場合によっては殺されてしまうこともあるのです。」
国際基準で言うならまさに「難民」に違いなくても、日本で難民申請をすると、なかなか「難民」として認められません。日本の入国管理局は、「難民保護」ではなく「監理」という観点で動いているので、在留資格が切れた彼らは収容施設に入れられ、そこで先が見えない、そして人権のない不安な毎日が始まります。身元保証人が見つかり、なんとか仮放免で外に出ても、自ら働いて生活費を得ることは禁じられているので、働けない彼らの仮放免中の生活は、民間の支援者によって支えられているのだそうです。仮放免中も、入管職員のさじ加減ひとつで、理由もわからないまま収容施設に逆戻りということもあり、場合によってはそのまま強制送還されてしまいます。その後の彼らがどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしいことです。
「医療用のガウンを作るというボランティア活動を任されて、彼らはとても生き生きしています。彼らが作ったガウンが、ひっ迫する日本の医療の現場で、人の命を救うために役立っているということは、彼らの喜びであり、人間としてのプライドにつながっているんです。」
じつは、彼らが最初に作ったガウンにわずかな埃が付着していて、「医療現場で使うものなので、これではダメです」と突っ返したことがありました。私たちはつらい気持ちで突っ返したのですが、シナピスのスタッフからは、逆にとても感謝されました。
「返品されたガウンを見て、彼らの職人魂に火が点きました。どうやったら埃をつけずに清潔なガウンが作れるか、彼らはミーティングを開いて必死で考えました。その真剣なまなざしは、プライドをもって働く人のそれでした。」
もともとシナピスでは、彼らに掃除などのボランティア活動をしてもらっていたのだそうです。もちろん、ボランティア活動と生活費の支給は全くの別物です。でも、あえてボランティア活動を取り入れて、彼らのプライドをぎりぎりのところで保つ工夫があったということなのです。
コロナ禍で外出が制限され、ボランティア活動もなくなり、シナピスに来ることもできなくなった彼らは、「干上がってしまい」「水だけで数日間、生きていた」という人もいました。彼らの窮状を見かねたシナピスのスタッフは、とりあえず現金を配りました。お金を手渡しながら、「恵んであげる」ようなことをしている自分がたまらなくつらく悲しかったそうです。ところが、彼らの口からはあたりまえのように、「子どもがいる人になるべくたくさんあげてください」という言葉が出てきたのです。「少し救われた気がしました。彼らが私を救ってくれました」と、スタッフの方は言いました。ガウン作りの話がきたのは、その直後のことだったそうです。
本を運び、ガウンを作ってくれた難民の彼らは、私たちの「となり人」です。
私たちは彼らを助け、彼らに助けられ、彼らに救われながら生きています。