書評Books いつしか「私」も物語の中へ

日本基督教団・牧師 花村みほ

 

『美しい物語
「ルツ記」を開こう』
山下正雄 著
B6判・定価550円(税込)
いのちのことば社

 

「この『ルツ記』は、一人の女性の人生のどん底から始まります。神から見捨てられたように思えるこのナオミに、神はどんな恵みと希望をお与えになるのでしょうか」(本文一〇頁)。

著者は最初の章にそう書いています。読み始めるとすぐに引き込まれ、気づいた時には一息に最後のページまで読み終えていました。

本書は、放送番組でリスナー向けに三か月にわたって語られた内容がまとめられたもののようですが、とてもわかりやすく、書かれた文章がまるで映像のように目の前に立ち現れ、あたかも登場人物の声が聞こえてくるかのごとく感じます。

聖書では七ページに満たない短い物語が、著者の想像の翼によって生き生きと豊かに描かれ、ナオミやルツ、ボアズの心の動きまでが手に取るように伝わってきて、いつの間にか私自身もその物語の世界の中に入りこんでいるような不思議な感覚を抱きました。

ところどころに時代背景、旧約や新約聖書を用いての解説を交えながら、しかし決して難しくなく説教調でもなく、平易な言葉で語られる中に、深い問いかけが発せられているように感じました。―なぜこんな苦しみに遭うのか?それは神から来るのか? だれかと共に生きるとはどういうことか? 幸せとは何か? 希望はどこにあるのか?

血のつながりを超えて、また差別や偏見を乗り越えて、神の家族のファミリーヒストリーに加えられた女性たちの物語を新たな思いで読むことができました。それは家族の再生(新生)の物語であり、どん底からの人生を回復する希望の物語でもあります。苦難を乗り越え、力強く生き抜く彼女たちの姿は、実にたくましく明るく前向きです。

「いまだ見ぬ世界への祝福の広がり」(最終章の題より)を示しつつ、現代に生きる私たちにも人生へのエールを送ってくれるような、そんな豊かな力をもった本だと思います。