書評Books「神の見えざる手」に導かれた邂逅

同志社大学教授 木原活信

 

本書のなかで、からしだね館開始に至る経緯が書かれていましたが、それによると著者の坂岡さんは、自治体職員、老人福祉施設、そしてからしだね館へと「その行くところを知らずして」「あなたは出ていくべきだ」という召命に導かれたそうです。

実は、同じ召命をもって私が東京から京都へ来たのが二〇〇六年ですが、同年にからしだね館も竣工。私もその竣工式に「はからずも」立ち会い、それ以来の付き合いになりますが、不思議なことに、私たちが意図していないのに、次々と接点が生まれてきました。これを日本的には「縁」と言うのでしょうが、これこそ「神の導き」そのものと言うべきでしょう。私は研究者であり、坂岡さんはソーシャルワーカーですが、福音信仰を土台として福祉に向き合う「同志」だと勝手に思っています。

さて、本書から、著者の誠実なお人柄と実践でのご苦労がひしひしと伝わってきました。内容も豊富で大変読みやすく素晴らしいエッセイ集になったと思います。前の著書『一粒のたねから』(いのちのことば社)にも教えられましたが、本書は、その後の十五年間の精神保健福祉領域での福祉実践に裏打ちされた深い洞察と、法人経営のリアリティが平易な言葉で語られていました。

その福祉観は、決して群れずに「孤独」を生き抜く「個」(一八頁)を大切にする姿勢、また、あえて「愚かさ」(一二頁)を生き抜くことを恥じない「求道者的姿勢」と人間の尊厳や平和を奪うものへの抵抗(七六頁)が貫かれていました。人間の「痛み」(三〇頁)や「弱さ」を基底にした視点が「援助者臭」を感じさせない爽やかさを生んでいるのでしょう。「福祉を伝道の手段とする」ごとき姑息なキリスト教への厳しい眼差し(五八頁)にも共感しました。

コロナ禍で、CLC京都店を引き継ぎ、新しい境地に進もうとされていることも書かれていましたが、この新しい展開に期待しています。福祉と福音にかかわるすべての方々に本書を薦めたいと思います。

『落ち穂を拾う 福祉と福音』
坂岡隆司 著
B6判・定価1,320円(税込)
いのちのことば社