ヘブル語のススメ ~聖書の原語の世界~ 9回目 形容詞の話

城倉啓
1969年、東京生まれ。西南学院大学神学部専攻科修了後、日本バプテスト連盟松本蟻ケ崎教会の牧師就任。
2002年、米国マーサ大学マカフィー神学院修士課程修了後、志村バプテスト教会牧師を経て、現在、泉バプテスト教会牧師、東京バプテスト神学校講師。

今回は形容詞の話です。形容詞とは、ある名詞の性質や状態を形容する言葉です。形容詞は暗号解読が簡単な品詞です。たとえて言えば、アーティスティックスイミング(シンクロ)です。表をごらんください。これは「大きい」「偉大な」という意味の形容詞の活用表です。

形容詞は名詞と結びつき、両者の語尾はきれいに同じ形になります。形容詞そのものに「男性形容詞」「女性形容詞」という二種類があるわけではありません。単数と複数の区別があるわけでもありません。形容詞と結びついている名詞が女性名詞の単数形ならば、その形容詞も女性単数形となるということです。たとえばこんな感じです。

この二単語で「偉大な律法」という意味になります。形容詞は名詞の忠実な従者です。

逆から考えましょう。もし語尾がそろっている二つの単語の連続を見たら、形容詞と名詞が並んでいることを疑うべきです。それが暗号解読の第一歩です。

形容詞には二つの用法があります。それによって意味が大きく変わるので注意してください。修飾用法と叙述用法です。両者を分けるのは語順です。さらに冠詞も目印になります。

①修飾用法
修飾用法は名詞→形容詞の順番です。たとえばという二単語の語尾に注目です。

とそろっています。を切り落として辞書を引くと、それぞれ「王」という男性名詞Ëと、「大きい」という形容詞だとわかります。語順は、名詞→形容詞の順番です。そこで「大王たち」(エレミヤ二五・一四)と訳します。この表現を修飾用法と呼びます。形容詞が名詞を飾り付けているからです。

修飾用法の場合、名詞と形容詞どちらにも冠詞がつかないか(右の例の場合)、あるいはどちらにも冠詞がつきます。語頭のシンクロも目印になります。たとえばという二単語の解読をしましょう。まず二単語の語頭がという文字でそろっていることに注目すべきです。一文字の品詞である冠詞です。 を切り落として辞書を引くとが女性名詞「地」であることがわかります。 は「その地」です。

をそのままの形で辞書を引いても何も見当たりません。形容詞の修飾用法のルールを知っている人は、ここで冠詞を切り落とします。また女性名詞を形容するために活用した語尾のも切り落として辞書を引きます。は「良い」という意味の形容詞です。をあえて訳せば「その良い」です。しかしこの冠詞を訳出することはありません。冠詞は形容詞が名詞を修飾していることを示す、単なる記号なのです。の二単語は「その良い地」と訳します(申命一・三五参照)。

②叙述用法
叙述用法は形容詞→名詞の順番です。叙述用法においては名詞が主語となり、形容詞が述語となります。二単語だけで主語と述語を備えた一文を叙述できるので、叙述用法と呼びます。叙述用法において、決して形容詞に冠詞は付きません。逆から言えば、もし形容詞に冠詞がついているのを見たら、即座に修飾用法と見破るべきです。

という三単語の解読に挑戦してみましょう。私たちの語彙にないのは二単語目だけです。一単語目は「良い」という形容詞、三単語目は「主」という男性固有名詞でしたね。まずの語頭のw“を一文字接続詞「~と」と見破り、切り落としてで辞書を引きます。すると「直立した」「正しい」という意味の形容詞だとわかります。形容詞(男性単数)→接続詞付きの形容詞(男性単数)→名詞(男性単数)という三単語です。語順からも冠詞の有無からも形容詞の叙述用法であると確信できます。「主は良く、かつ正しい」(詩二五・八参照、新改訳「主は いつくしみ深く正しくあられます」)。

かなり聖句を直に読んでいる感じになってきましたね。形容詞までをマスターすれば、ヘブル語の語彙のほとんどはおしまいです。こ・そ・あ・ど言葉にあたる「指示代名詞」は形容詞と同じルールですから恐れるに足りません。あとは頻出する「人称語尾」という独特なルールや、ヘブル語文法世界に君臨する「動詞」のルールだけが残ります。