ヘブル語のススメ ~聖書の原語の世界~ 4回目 母音記号の話

城倉啓

1969年、東京生まれ。西南学院大学神学部専攻科修了後、日本バプテスト連盟松本蟻ケ崎教会の牧師就任。
2002年、米国マーサ大学マカフィー神学院修士課程修了後、志村バプテスト教会牧師を経て、現在、泉バプテスト教会牧師、東京バプテスト神学校講師。

 

ヘブル語のアルファベットには母音がありません。
たとえば、ct s n th dsk.という英文を、正しくA cat is on the desk.と読めるでしょうか。母音がないと読み方は不安定になります。
前回紹介した「準母音」という方法にも限界があります。iとe(同じ)、uとo(同じ)の区別がつけられないからです。これでは毎週安息日に行われる会堂礼拝での聖書朗読にも、支障をきたします。そこで、正しい読み方の保存のために考案されたのが、母音記号です(紀元後五世紀より)。

上の一覧表をご覧ください。非常に無機質な点や線がアルファベットの周囲に付けられています。アルファベットの下に付けるものが大半ですが、oの母音記号は上(左肩)に付いています。かつて準母音だった文字と組み合わさってアルファベットの左隣に付くものもあります。
これをローマ字のような要領で読めば、ヘブル語を読むことができます。

「なんだ簡単じゃないか」と思われる方、そのとおりです。ローマ字読みを知っている日本語話者は、欧米語を使う人よりも有利です。

たとえば、が読めますか。右から(縦書きの場合は下から)読むのですよ。のs音と長母音記号 のā音が組み合わさっています。のr音と準母音付きの長母音のâ音が組み合わさっています。

片仮名で書けば「サーラー」と読めます。誰でしょうか。そう! サラです。どうですか。実際の聖句を読んでしまいましたよ。子音アルファベットと母音記号のローマ字的組み合わせ(子+母)。これがヘブル語の読み方の一つの基本です。

子+母のパターンを「開音節」と呼びます。口を開けたままどこまでも「サーラー」と言えるからです。どうぞ世界の中心で叫んでください。

もう一つの基本があります。アルファベットと母音記号とアルファベットというサンドイッチ構造です(子+母+子)。にも食らいついて読んでみましょう。は「喉を開けたまま」という子音ですから、母音記号 の音をそのまま読みます。片仮名で言えば「アー」。

その次の はdāと読みます。しかしどうでしょうか。そうなるとだけが取り残されてしまいます。「人がひとりでいるのは良くない」ので、この場合、と一塊にしてあげます。dāmと読みます。この組み合わせを閉音節と呼びます。「アーダーム」はmの音で口が閉ざされるからです。

この単語も人名ですが、誰だかわかりますか。アダムさんです。閉音節については、韓国語のパッチム(最後の音を表す子音または子音字母)を知っている人は有利です。

母音記号の他に重要な記号があります。シェヴァという記号。大雑把に言うと「このアルファベットには母音記号は付いていませんよ」という意味の記号です。という単語のrの下についている記号がシェヴァです。rには母音記号がないという意味ですので、mir-yāmと読みます。子母子―子母子と、二つの閉音節によって一単語が作られています。はい。ミリアムさんでした。

目ざとい読者は、同じ記号が違う音に兼用されていることに気づいているはずです。 は、āと読むこともあれば、oと読むこともあります。どうやって読み分けるのでしょうか。閉音節でアクセントがない場合だけoと読みます。「アクセントなんて今まで説明があったかしら?」すみません、初出です。

これまた大雑把に言いましょう。たいがいのヘブル語単語は、最後の音節にアクセントがあります。次の単語も最後にアクセントがあります。

どうですか。「ヤロブアム」と読めましたか。口語訳の「ヤラベアム」は読み方の間違い、新改訳等が正しい読みを示しています。

 

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