書評Books 「新しい創造」に生かされること

福音自由教会協議会・東京センターチャーチ 牧師 下村明矢

 

『職場と信仰 “不当な要求”を受けたとき』
高橋秀典 著
B6判 1,800円+税
いのちのことば社

 

著者は日本屈指のN証券での葛藤、またその後の牧会経験から、仕事を持つクリスチャンが遭遇する職場での苦悩に的確な答えを提示している。そこに流れるのは、あなたは神に遣わされたとの召命観と、そこに寄り添うイエスの優しい目線だ。「この世の経済活動には、きれいごとで通らないことがありますが、イエスはそのただ中に住むために人となられたのです。……あなたは、誰に喜んでもらいたいと願っているのでしょうか」(五五頁)と問い、「イエスのくびきを負うということは、『私はイエス様への責任を果たすために働く』と思うこと」(五四頁)と、上司を見る前にイエスを見上げよと我々を励ます。

また、会社の命令に法律違反ではないかと疑問を感じるときの対処法にも答えを出そうとしている。性急な内部告発は勧めない。黙って従うというふりをして……というのもよくない。勇気の要ることだが、責任者と正面から向き合い、最終だれが責任を持つのか、「部長一人が持つのですね(部下に押し付けないですね)」と確認を迫るのが本当の勇気だと。「私を強くしてくださる方によって、私はどんなことでもできるのです」(ピリピ四・一三)。森友事件の改ざん命令に従って自殺者が出た痛ましい事件を思うと、この勇気が組織内での自分を守ってくれるに違いないし、最終的に組織を守ることにもなるかもしれない。

また、理不尽な要求をしてくる上司に対しては、彼がそれを言う背景、何を恐れて言い出したのか(おそらくは、さらにその上の上司を恐れてだが)を考えてみることで、不要な反発心を避けることができるとのアドバイスに納得した。上司の望むところがわかれば、たとえばダニエルがユダヤの食事で元気に太ったことで王のご馳走を食べずにすんだように、第三の道、win-winの答えを出すことも可能というのは、目からうろこだった。

アダム・スミスの『道徳感情論』があっての『国富論』だったという順番と、経済学はキリスト教神学の一部であることを私自身この書で学んだ。「新創造」を目指すクリスチャンビジネスパーソン待望の手引書だ。