特集 霊性とは何か「自分らしさ」を見つめる 「自分らしさ」を失わない生き方とは

ニューライフキリスト教会 牧師  豊田信行

今秋発売されるケン・シゲマツ氏の新刊『魂のサバイバルガイド』(Survival Guide for the Soul)は、前著『忙しい人を支える賢者の生活リズム』の続刊です。

前著では中世の修道院の生活リズムを紹介し、現代人の信仰生活にとってリズムの重要性を教えてくれました。『魂のサバイバルガイド』はキリスト者にとって「自分らしさ」の重要性を教えてくれます。

キリスト教霊性にとって「自分らしさ」は非常に重要なファクターです。真のキリスト教霊性は「自分らしさ」を抑圧、否定することを要求しません。反対に、健全なキリスト教霊性は「自分らしさ」を神の賜物として受け取ることを促します。しかし、イエスは「だれでもわたしについて来たいと思うなら、自分を捨て、日々自分の十字架を負って、わたしに従って来なさい」(ルカ9・23)と教えられました。「自分を捨てる」ことなくして、イエスに従うことはできません。

しかし、「自分を捨てる」ことへの誤解が、キリスト者の霊性の深まりを妨げてきた主な要因ではないかと思います。「自分を捨てる」とは、自分らしさを抑圧、拒絶するとの意味ではありません。「自分を捨てる」とは、自己への執着を手放し、自らを神に明け渡すことです。

イエスは、「自分のいのちを得る者はそれを失い、わたしのために自分のいのちを失う者は、それを得るのです」(マタイ10・39)と教えられました。

このイエスのことばを、「自己に執着した人は“自分らしさ”を失い、自己への執着を神に明け渡した人は“自分らしさ”を手に入れます」と言い換えることができます。

「自分らしさ」は自我に絡み取られています。自力では解けないのです。

『魂のサバイバルガイド』はまさに「自分らしさ」を失わない生き方、神に自我を明け渡した生き方というパラドックスに目を開いてくれます。

なぜ、神に自我を明け渡すことで、「自分らしさ」を得ることができるのでしょうか。この疑問に、本書は見事に答えてくれます。

「自分らしさ」の捉え方が素晴らしいのです。ケン師は「すべての魂が持つアダムの二面性」、「達成を求めるアダム」と「魂を求めるアダム」という概念を紹介しています。重要な点は魂の二面性に優劣をつけていないことです。

キリスト教霊性に関してよくある誤解は、存在(Being)が活動(Doing)よりも重要との考えです。教会の活動に疲れ、静まりや黙想を通して存在の大切さを再認識した場合、存在と活動に優劣をつける傾向があります。その結果、活動の軽視という厄介な問題が生じます。

しかし、キリスト教霊性とは存在の偏った強調ではなく、活動と存在の統合を目指すのです。すなわち、「達成を求めるアダム」と「魂を求めるアダム」を統合することこそが、キリスト教霊性の神髄なのです。

神はすべての人のうちに達成願望を与えてくださいました。この達成願望は決して抑圧、否定されるべきではなく、ただ贖われる必要があります。ケン師は、「キリストに人生をゆだねることにより、私たちの願いが根本的に調整されるだけでなく、もっと大きく充実した人生―決して小さくなることはありません―をもたらします」(本書三四頁)と教えています。

存在(Being)と活動(Doing)が統合されるとき、活動は「自分らしさ」を開花させます。

野に咲く花が栄華を窮めたソロモンよりも着飾っていたとは、本来の自然の輝きのゆえです。「自分らしく輝くこと」ほど、神に栄光を帰すことはありません。

「人は、たとい全世界を手に入れても、自分のいのちを失ったら何の益があるでしょうか。そのいのちを買い戻すのに、人は何を差し出せばよいでしょうか」(マタイ16・26)。

野心を抱き、「自分らしさ」を抑圧し、全世界を手に入れても、その代償として自分らしさを失うなら、“ザ・損失”でしかありません。

「全世界を手に入れた人」とは、「承認欲求の虜」になっている人でもあります。世の承認を獲得していながら、そんな自分を愛せず、蔑み、拒絶します。ケン師はこの自己の分裂を統合へと導く霊的修練を紹介しています。

霊的修練といっても、必ずしも目的が同じではありません。禁欲主義的、あるいは、律法主義的な霊的修練は自己の分裂を生み出し、さらなる分裂を引き起こします。健全なキリスト教霊性に属する霊的修練は、分裂した自己を統合します。自分らしさを取り戻していくのです。

ケン師は、「自己の統合を助ける習慣」として、「黙想」(第四章)、「安息日を守る」(第五章)を取り上げています。

また、「謙虚さを養う習慣」として、「感謝を表す」(第六章)、「しもべの心」(第八章)を紹介しています。

ケン師とは、個人的に何度かお会いする機会がありました。主にある同労者として強く感銘を受けたのは、その首尾一貫した生き方でした。自己が統合される霊的修練を着実に実践されていることの結実なのでしょう。

本書は、ケン師自身の分裂した自己が統合されていく霊的な歩みをわかりやすく紹介しています。まさに、霊的旅路のガイドブックです。いや、霊的に枯渇した現代社会においては「魂のサバイバルガイド」となるのでしょう。

10月発売

『魂のサバイバルガイド 達成志向の世界で霊性を養う』
ケン・シゲマツ 著 重松早基子 訳
四六判 定価1,700円+税

 

好評既刊
『忙しい人を支える 賢者の生活リズム』
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重松早基子 訳
四六判 定価1,800円+税

 

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