~Daily Light~ 第9回 親愛なる日々の光景

石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。

 

手術のために何度か入院してきた中で、さまざまな患者さんとの出会いがあり、そのうちのひとり、毎朝大窓のカーテンを開けに来てくださる同室の方がいました。朝日を浴びたカーテンは、揺れるとオーロラのように輝いて見えました。手術の日の朝、その方は私の手を握って「あなたには生きていてほしい」と言うので、私は強く思ったのでした。「明日もあなたに会いたい」。

病院の待合室で。隣の女性に、どこが悪いのかと尋ねられたので説明したところ、初対面のその女性は涙を流して言うのでした。「あなたはきっと、大丈夫」。

退院後、私に絵や大切な言葉を教えてくれた美術の先生の訃報を知りました。先生の笑顔はやさしくあたたかく、私は先生が描く、野の花やひまわりの絵が好きでした。

やんわりと、昔、絵を見せる約束をしていた人が約束の日の朝に帰らぬ人となったことが思い出されました。「それ、いいね。完成したら必ず見せに来てよ」。新聞には交通事故で即死という事実のみが書かれ、残されたロッカーには別の名前のラベルが貼られました。まさかということも、時は淡々と押し流します。涙が出なくとも慣れたわけではなく、死というものに慣れることなどないのです。でも、私はひどく寂しい日にあっても、心に残る姿と言葉が紡ぐ明日への希望もあると、ようやく思い始めてもいます。

つらいことがあっても、ひとりで耐えているときは泣くことなどないのに、見守ってくれている人の笑顔が思い浮かぶとき、涙せずにはいられない。目に見える涙も見えない涙も、時に言葉より真実に近いのではないでしょうか。

「会いたい」。それは、祈りにも似た思いでもあるのです。

「私はあなたの涙を覚えているので、あなたに会って喜びに満たされたいと切望しています。」(テモテへの手紙第二1章4節)