書評Books 挑戦と励ましを与える書

挑戦と励ましを与える書

クライスト・コミュニティー顧問牧師/名誉神学博士 大橋秀夫

 

 

『教会増殖
日本という土壌に福音を満たす』
ジョン・メイン 著
松平善宏 訳
津倉茂 監訳
四六判 1,700円+税
いのちのことば社

かつて宣教学者ピーター・ワグナーが宣教困難な地域として挙げた〈一〇・四〇の窓〉(teen/forty window)の中に存在した国々は、その後次々と消えていき、今や残っているのはバングラデシュと日本である。

本書は、宣教師の墓場と揶揄された日本で三十四年間、「日本という土壌に福音を満たす」(副題)ことに懸命に向き合ってきた著者が、「教会の再生産と増殖」という切り口で書き下ろした渾身の日本宣教論である。

「教会増殖」という言葉を聞き慣れない読者もいると思う。現代では開拓という人為的な行為よりも、増殖という生物学的な展開を表す言葉がもっぱら使われる。そこにも本書が単なる教会開拓の方法や事例を紹介する以上のものであることがうかがえる。日本という土壌・文化のとらえ方ももしかすると日本人よりも客観的で、的を射ているかもしれない。それが福音の文脈化への変革に必要なものを気づかせてくれる。そして、すでに教会を増殖させている教会モデルとそのリーダーたちの特徴を丁寧に紹介もし、「教会を生み出すリーダーは、独創性を持った起業家と同じように、『伝統的なリスクを避ける文化を克服する』技能を持っている必要があります。勇気に満ちた信仰と、リスクを受け入れる類まれな心は、より大きな効果を生むことでしょう」(本書二〇〇頁)と挑戦と励ましを与えてくれる。

また著者が、教会の再生産のために働くリーダーには、ビジョン、信仰、教会観が不可欠な土台だと言うことに小生も同意する。中でもわが国では著者が指摘する「教会観やリーダー観に関する神学的な土台についての懸念があり」(二三九頁)、それは決して小さくはない。「教会の再生産を導いているリーダーたちは、教会観が変革したことにより彼らのビジョンや信仰に影響が及んだ」(同頁)ということは事実であり、日本のリーダーたちがこれまでの伝統に固執するかぎり、日本の教会成長は、これ以上の進展を望めないことを示唆している。主の大宣教命令を達成しようと願うすべてのリーダーたちには、ぜひ読んでほしい一冊だ。