書評Books: 私たちは中田重治に何を学ぶか

私たちは中田重治に何を学ぶか

東京聖書学院院長/日本ホーリネス教団・東京中央教会 牧師 錦織寛

 

『中田重冶とその時代―今日への継承・教訓・警告』
中村 敏 著
A5判 2,800円+税
いのちのことば社

日本キリスト教史を専門とする中村敏先生が、中立的な立場から中田重治の歩みを詳細に研究し、その歴史背景や思想について論じてくださったことを心から感謝している。
私は日本ホーリネス教団の牧師の息子として生まれて、若い頃から中田重治に触れてきた。髪の毛のない、つるっとした頭の眼光鋭い中田重治の写真はよく目にしていたし、中田重治が与えられていた、みことばをわかりやすく語る賜物やそのリーダーとしてのカリスマ性についてもよく耳にしていた。
中田重治の直系を主張することはできないが、中田重治に触れた人たちに触れることによって、ある意味幾分かはその息がかかっているという自覚を持っている。広い意味では、やはり、中田重治がいなかったら私もいなかったのだ。

ひとつの時代の中にキリスト者、教会のリーダーの一人として立てられた中田重治を思うときに、本書は時代背景の中で、また大きな教会の歴史の中で一人の主の器を理解することの大切さを教えてくれる。誰もそのようなさまざまな時代意識と無関係に、ただ純粋に中立的に生きることはできないからだ。
また、特に第二部において、中村氏が、中田重治の日猶同祖論やディスペンセーション主義、また彼の愛国主義やリーダーシップの生まれてきた背景や、その課題について論じておられることは、単に過去の人物を描くというだけでなく、今の私たちの歩みに大きな示唆と警鐘を与えてくれる。

閉塞感が繰り返し語られる中で、日本の教会も新しい時代のカリスマ的なリーダーを求めているのかもしれない。主は、歴史のなかで、今までも必要な主の器を時代の転機に送ってくださったからだ。ただ中田重治ほどの器でなかったとしても、また神学的な立場はどのようなものであれ、歴史の転換点にあって教会の中に立てられている自らがどう生きるべきかを考えるためにも、必読の書であると思う。