神の賜わるいのちと愛に生かされて~子どもと家庭を救う根源的な力~

『「いのち」と「愛」に着目する子育て』
岡本富郎 著
四六判 900円+税
いのちのことば社

木場深川キリスト教会牧師 佐藤義則

著者は、教育学を専門として長年大学で教鞭をとってこられました。その教育者としての姿は、机上の学問ではなく、今日も絶えることのない子どもの問題に常に向かい合い、子育てに悩む親たちと、親以上に生きづらさを感じ傷んでいる子どもたちに寄り添いながら、現場で培ってきた実践的な学問を教えるというものでした。
その人柄は、手遊びで子どもとすぐに友だちになり、「おじいちゃん」と呼ばれて子どもに慕われ、大人とは愚者のようになって皆を笑わせ安心させる、おおよそ大学教授とは思えないものです。
さて、本書は、今まさに起こっている親の子どもへの虐待、不登校、いじめなどの問題について、子どもと子育ての現状を客観的な数値に示し、自身が関わった実例をもとにメスを入れています。その実例には、著者の基本的な姿勢が読み取れます。それは、ひとりの人格といのちへの畏敬です。著者の子育て相談は指導するというものではなく、いのちの力と人格への信頼をもって引き出すというものです。子どもや大人を問わず、「よくここまで耐えてこられましたね」と、悩んでこられた人たちへのいたわりの心と尊敬の思いが伝えられ、その相談を重ね、関わりを深めてゆく中で、内に秘められたいのちの力が、子どもたちの傷ついた心をいやし、本来の姿へと回復させてゆく。また、親たちが本来持っている子どもへの愛情に気づかされ、著者の助言に従い、誠実に問題に取り組むことによって、親子の関係が建て直されてゆくというのです。
最後の章には、健やかな子どもの心と健全な家庭を回復されるいのちと愛は、創造主なる神、十字架にかかられた贖い主なる主イエス・キリストによって与えられるものであることが述べられています。
子どもの問題には、大人社会のいじめの構造や学歴や物質的豊かさを求める偏ったあり方が強い影響を及ぼしていると、本書は指摘しています。このような時代に子どもの健やかな育成を願って、著者の言うように「いのちと愛の力を神に祈り求めて」ゆきたいと思います。