『たいせつなきみ』邦訳20周年Anniversary 親からわが子へ、そして、次の世代に

初版発行以来、愛されてきた絵本『たいせつなきみ』シリーズが、邦訳20周年を迎えた。20年前よりも、“自尊感”がさらに希薄になっているように感じる今、あらためて「あなたは大切な存在」と語りかける本書の内容を味わう。

<<今だからこそ、読みたい「真実の愛」の物語>>
新潟青陵大学 大学院教授  碓井真史

中学生にも、大学生にも、絵本『たいせつなきみ』を読み聞かせすることがあります。
今、愛されている実感を持てない子ども・若者が、大量に生まれ続けています。それは20年前よりも、さらに悪化しているかもしれません。
いつも無視されている子どもたちがいます。彼らには誕生日もクリスマスも来ません。いつも縛られている子どもたちもいます。どんなに頑張っても、返ってくる言葉は、「もっと頑張れ」です。いつも甘やかされている子どもたちもいます。叱られはしなくても、すっかり弱い子になってしまいました。
『たいせつなきみ』を朗読した後で、いつも言います。
「この本は、『努力しなくてもいい』という話ではないよ」と。
私たち一人ひとりは、たいせつな存在です。主人公である木ぼりの小人ウイミックのパンチネロのように絵の具がはげていても、歩くのが遅くても、神は「わたしにとってとくべつなきみ」と語りかけてくれます。
ただ、だからといって何もしないでよいわけではありません。努力なしで与えられるだけの生活は、幸せではありませんから。
しかし同時に彫刻家のエリは、自信を失い無為な生活を送っているパンチネロの「ありのまま」を認めます。
「お前がわたしのものだから、だから大切なんだよ」と、エリは語ります。
この言葉は、私たちの傷ついた心を包み込みます。そして人は、今の自分のありのままでいいと心から信じられれば、そのままの生活ではいられないのです。なぜなら、エリが語るように、作り主は決して失敗作を作らないからです。
*  *
『たいせつなきみ』は、神の無条件の愛を私たちに伝えます。真実の愛こそが、犯罪や引きこもりなど社会の諸問題を解決する鍵です。
そして神の愛は、ただの甘やかしではありません。エリは、「(周囲からのラベル付けの)シールがくっつくようにしていたのは、お前自身なんだよ」と、優しくパンチネロに語りかけます。
初めてエリに会ったパンチネロは、とても喜びましたが、でもまだよく理解できませんでした。
「これからは毎日、わたしのところへおいで」
そうエリが語りかけたように、『たいせつなきみ』は、何度も読み返す絵本です。
新しい読者も、愛読者も、あの可愛らしいチョコレート色の表紙を、さあ今、開いてみましょう。

 

 <<絵本がもつ大きな力>>
絵本読み聞かせ子育て講演 講師/保育士  高橋圭子

絵本には大きな力があることを、私は、これまでの数知れない読み聞かせの経験から教えられてきました。幼い子どもから高齢者まで、絵本にはそれぞれの年代の方々に語りかける力があります。
絵本はわかりやすいことば、しかも短い文章で作られ、挿絵と相まって、作者の思いが読み手に伝わります。絵本は読み手の感性に優しく触れ、心の深いところをそっとゆすってくれます。絵本は素晴らしい読み物です。
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現代を生きる私たちは、不安定な社会情勢やさまざまな恐ろしい事件や事故、予測不能な自然災害等を、日々耳にして生きています。誰もが少なからず将来への不安を抱き、自分自身の無力さやふがいなさを感じているように思います。誰もがどう生きていけばよいのか、迷っているように感じます。
私も例外ではありません。私はクリスチャンで、毎日聖書を読み、みことばと接し、神からの平安や希望をいただくことで、ようやく前を向いていけますが、多くの人々はそうではありません。しかし、人はクリスチャンであろうとなかろうと生きていくための真理を求めていると思います。
よい絵本には真理があります。聖書(神のみことば)をよりわかりやすく、具体的に表しているものが数多くあります。絵本だからこそ神さまの真理がより深く理解でき、その真意が明らかに示されていると感じることが何度もありました。
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二十年前に出版された『たいせつなきみ』では、人間一人一人は神さまが造られた、唯一無二の存在であり、その存在そのものが尊く、素晴らしいのだと語られています。
イザヤ書四三章四節「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」というみことばを思い出させると同時に、心の中にこのみことばがストンと落ちてきて、心が温かくなり、自分の存在価値を再認識できるようになります。「あなたは大切な存在」と優しく、そっと語りかけてくれるのです。
私たち人間は「あなたは大切な存在だ」と一度聞いて理解したとしても、何か不都合なことが起こったり、人に否定的なことを言われたりすると、すぐに不安になり、自分に自信を失うものです。そんな私たちに絵本は寄り添うかのように真理を語りかけてくれます。
今回、新たに『たいせつなきみストーリーブック』が出版されましたが、全六話それぞれが真理を描き出しています。「人は何を大切にしながら生きていくべきなのか」「神にどんなささげ物をするよりも神を心から愛する、その心こそが大切」「神は一人一人それぞれにふさわしい賜物を必ず与えてくださっている」とのことばが、心の中に響いてきます。これらの真理は、私たち人間に日々、語られ続ける必要があるものなのです。
みことばを毎日繰り返し読み、思いめぐらして心に蓄えていくように、この六つの物語もまた、何度も何度も繰り返し読むことで心に、体に、魂に、その真理を染み込ませることができる、素晴らしい作品だと思います。
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『たいせつなきみ』を読み聞かせするとき、聞き手の表情が変化していくことを目の当たりにします。
主人公のパンチネロが自分のダメさを知り、落ち込み、次々とダメシールを貼られていくとき、そんなパンチネロと自分を重ね合わせた聞き手の表情は硬く、沈んで見えます。
しかし、造り主であるエリから、どんなに愛され、大事に思われているかを告げられ、パンチネロがエリのことばを信じていこうと決心すると、聞き手の表情はパッと明るく穏やかになります。
絵本のもつ大きな力を、ぜひ多くの方に体験してもらいたいと願います。

『たいせつなきみ ストーリー ブック』 全6話 あらすじ紹介

パンチネロの成長物語 〜「だめな 自分」から「たいせつな自分」へ~
累計23万部のロングセラー『たいせつなきみ』シリーズの絵本が1冊になって登場! 物語のあらすじを一挙に紹介します。

1話 『たいせつなきみ』 あなたは高価で貴い
彫刻家エリの手で造られた木彫りの小人ウイミック。彼らは箱に入れたシールを持ち歩き、互いにそれをくっつけ合って暮らしていた。才能のある人には金色、能力のない人にはねずみ色のシール。何をやってもダメなパンチネロは、体じゅうねずみ色のシールだらけ。ある日のこと、パンチネロはシールが一つも付いていない女の子・ルシアに出会う。「エリに会いに行けば、そのわけがわかるわよ」そう告げられ、丘の上のエリの工房を訪ねることを決心する。

2話『ほんとうにたいせつなもの』 「物」に心をわたさないで
何も持たずとも、ありのままで価値があるとエリから教えられたパンチネロだったが、村ではやり始めた「箱とボール集め」に夢中になる。エリの言葉も忘れて、箱を手に入れるためにすべてを犠牲にするパンチネロ。「ほんとうに幸せなのかい?」エリの問いかけに、忘れかけていたものを思い出す。

3話 『きみはきみらしく』 自分の色が一番
人のやることが気になってしまうパンチネロは、最新スタイルの「緑の鼻」から目が離せなくなる。流行に遅れたくないと、ルシアの忠告も聞かず、鼻を緑色に塗って村を闊歩する。ところが、流行色は次々に変わり、追われるように鼻を塗り直すうちに、ほんとうの自分の色がわからなくなってしまう。

4話 『たったひとりのきみ』 みんなちがってみんないい
憧れのウイミック、ベス・ストーバル。素敵なベスの仲間になれるのは、彼女と同じ「気高い森のカエデ」でつくられた者だけ。ベスの登場で、ウイミックたちはどこの森の何の木でできているかを気にするようになる。カエデの人をうらやみ自分にがっかりするパンチネロに、エリはとても大切な話を始める。

5話 『いちばんうれしいおくりもの』 ただ、いてくれるだけで
待ちに待った「つくり主の日」に向け、村中が大わらわ。自分こそがエリを一番に喜ばせようと、贈り物の準備に余念がない。空回りぎみのパンチネロには、「そばにいてくれるだけでうれしいよ」というエリの言葉は耳に入らない。いよいよ当日、贈り物合戦の最中、お祝いが台無しになるトラブルが起きてしまう。

6話 『きみへのとくべつなおくりもの』 あなたらしく生きよ!
ウイミックたちに、ある朝、不思議な贈り物が届けられた。大工仕事が得意なパンチネロには金づち、絵が好きなルシアには絵筆…。どれも、それぞれにぴったりな品だった。贈り主は誰で、なぜくれたの? 旅人を助けるために届いた品を役立てた村人たちは、贈り主の意図を理解する。「人の物ではなく、自分の贈り物を使って、一番上手にできることを、力いっぱいやりなさい」

 

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