書評Books 聖書に聴き、世界を観る 百年経っても新しい

日本福音キリスト教会連合 東松山福音教会牧師 岡山英雄

『現代に語る内村鑑三 ロマ書の研究』(上・下)
内村鑑三 著
佐々木忍 編訳
A5判 (上)2,200円+税
(下)2,500円+税
いのちのことば社

内村鑑三のロマ書講義の現代語訳である。ほぼ百年前、一九二一年(大正一〇年)から六十回、二年近くかけての講解だが、少しも古びてはいない。
段落ごとに丁寧に、原語、文脈から本文の意味を説き明かす。難解な箇所は要点を指摘し、自らの体験(実験)に照らして説明する。さまざまな信仰の偉人や哲人、文学の引用が随所にあり、広い視野からパウロの意図を明らかにする。
この書の核心は信仰によってイエスを仰ぎ見て、十字架の贖いによって罪深い者が救われることである。法然、親鸞の浄土教と比較して、絶対他力の信仰は共通しているが、義を欠く慈悲の教えの限界を指摘する(八講〔神の義〕)。
さらに当時の日本、そして世界情勢について論じる。四十年ぶりに再読したが、今回気づいたのは、世界情勢の的確な分析である。この講解の前に、彼は「非戦」と「再臨待望」という二つの独自の信仰を確立していた。
非戦論は一九〇四年(日露戦争)に明らかにされた。彼は、「キリスト教国家」である英米による二つの戦争、一八九九年の南ア戦争(英による金やダイヤモンドの強奪)と一八九八年の米西戦争(米によるフィリピンの植民地支配)に注目し、戦争の欺瞞性を見抜き、それは「義戦」ではなく「欲戦」にすぎないと断じた。
十五講「人類の罪(ローマ三章)」では、第一次大戦においてヨーロッパの国々が、「憎悪むきだしの罵詈雑言」を敵国に浴びせかけ、「サタンが唆す呪いの叫び」が世に満ちたと述べる。憎しみと暴力による支配の愚かさは、百年経った現代世界にそのまま通用する。
また一九一二年の愛娘ルツ子の死によって再臨信仰を新たにし、一九一八年には「再臨運動」の講演を日本各地で行った。「万物完成の希望」を力強く述べた四十講「救いの完成」などにその信仰が示されている。
みことばに聴き、十字架の福音を生き、日本人への宣教に力を注ぎ、世界の情勢を的確に把握した内村の信仰が、この書に見事に表されている。