自然エネルギーが地球を救う 第10回 世界に広がるエネルギー利用

足利工業大学学長

牛山 泉

一九四五年、第二次大戦直後の世界の人口は、わずか二十三億人、その後七十年を経過して現在は七十億人を超え、今世紀中には百億人になろうとしている。人口は三倍に増加したというより、爆発したのだ。
「わたしは、あなたの子孫を地のちりのようにならせる。……」(創世記13・16、あるいは15・5)という聖書のことばは見事に成就したが、この人口を支えるには食糧とエネルギーが不可欠である。現時点ではエネルギーは四十億人分しか供給できず、三十億人ものエネルギー難民が発生している。この開発途上国の三十億人もの人々は、原子力や大型火力など大規模集中型エネルギーシステムの恩恵に浴していないだけで、小規模分散型の自然エネルギーによるコミュニティー発電を進めれば救済できる人々なのだ。

人類は、将来にわたって一定程度の豊かさをもって暮らしていける社会、つまり持続可能な社会を実現していかなければならない。そのためには持続不可能な化石燃料や原子力でなく、再生可能な資源とエネルギー源を、再生可能な範囲で使っていくしか道は残されていないのである。
世界全体を見れば、自然エネルギーは、農業革命、産業革命、情報通信革命に次ぐ「第四の革命」と呼ばれるほどの急激な成長を遂げている。二〇一五年に、世界で新設された電源の六割以上が自然エネルギーで、その投資額も世界全体で約三十六兆円と記録を更新している。二〇一五年十二月パリでの地球温暖化サミットでは、欧州は二〇三〇年までに自然エネルギー発電を四五%に倍増する野心的な目標を設定するなど、各国とも自然エネルギーを、地球温暖化対策はもちろんのこと、エネルギー供給、産業経済、地域活性化の柱として位置づけている。
このような状況は、二十年前には考えられなかったことであるが、自然エネルギー発電の「学習効果」により性能向上と価格低下が継続的に生じていることに加え、エネルギーシステムの流れが独占的な大規模集中から民主的な小規模分散へと変わってきたことが原因である。これにより、地域コミュニティーやNGOなどがエネルギーを自立的に低価格で生み出せるようになったのだ。

内村鑑三が持続可能社会とエネルギー問題の先見者として、百年以上前に紹介したデンマークは、二〇一二年に決定した「緑の転換」プロジェクトにおいて、二〇五〇年には風力とバイオマス中心の再生可能エネルギー利用によって化石燃料の使用をゼロとする「CO2フリー」の国づくりを目指している。二〇一六年現在、すでに電力消費の約四〇%を風力発電でまかなっている。また、同国のサムソ島(人口四千二百人)や沖縄本島ほどのロラン島(人口六万三千人)は、すでに自然エネルギー一〇〇%を実現している。
欧州では、デンマークに続きドイツで環境局が二〇五〇年に電力を一〇〇%自然エネルギーとするシナリオを発表しており、オスナブリュック市(人口十五万八千人)は周辺地域と「一〇〇%気候保護マスタープラン」を策定し、電力需要の約三四%、熱需要の約一二%を自然エネルギーでまかなっている。農村部や島嶼では、ヴィルドホルツ村(人口二千四百七十人)やペルヴォルム島(人口一千百五十万人)などがすでに一〇〇%自然エネルギーを達成している。さらに、大都市ミュンヘン(人口百三十五万人)でさえ、二〇二五年までに一〇〇%自然エネルギーの目標を設定。市域内での供給には限界があるため、ドイツ国内および欧州内の各種自然エネルギー発電に資本参加し、電力系統に給電した電力をミュンヘン市内に供給する計画を進めている。

日本では、東日本大震災と福島原発の事故を契機に、福島県が再生可能エネルギー推進ビジョンの中で「二〇四〇年までに一〇〇%自然エネルギ―」を掲げている。また、宝塚市では「宝塚エネルギー二〇五〇ビジョン」の中で、二〇五〇年までに電力および熱需要において、それぞれ五〇%の自給率を目指し、あわせて市外からの調達により一〇〇%の活用率を目指している。
このようにして、国内外で進行中のコミュニティパワーは、これまで独占されてきたエネルギー政策を民主化すると同時に、与えられてきたエネルギーを、自らの意思で創り出し、選び取る時代になったのである。創世記には、神が光や水や動植物を創造し、人間に管理をゆだねたと書いてある。その良き管理者の権限を越えて限られた資源をむさぼるのではなく、賢く用いることが求められている。