DVD 試写室◆ DVD評 125 「パペットアニメ聖書物語」 Part1

DVD「パペットアニメ聖書物語」
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師

見事! 粘土が演じる人間ドラマ「アブラハム物語」

 「神である主は、土地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。そこで、人は生きものとなった」(創世2:7)。

 このようにして造られた人間は、創造主から、創造の力と喜びを与えられた。そして、土の塊である粘土(クレイ)で人形を作り上げ、見事にそれに命を吹き込んだのである。今号から3回にわたってご紹介するDVD『クレイアニメ聖書物語――アブラハム/ヨセフ/ルツ』(仮題)は、そんなクレイアニメーションの作品だ。

 しかし、神ならぬ人間が、粘土の人形に息を吹き込むのには、気の遠くなるような作業が必要だ。人形のポーズを少しずつ動かしては、一コマずつ撮影する。たった1秒間の映像を作るために、何カットもいるのである。クレイアニメーションは、一般のアニメーションよりも、数段、手間がかかるという。

 このDVDに収録されている3本は、どれも25分の短編だが、製作には、その何十倍、何百倍もの時間と、気の遠くなるような労力が費やされているのである。

 しかし、そのかいあって、粘土のアブラハムが、ヨセフが、ルツが、生き生きと動き出した。そして、1997年には、サンフランシスコ国際映画祭優秀賞を受賞したのである。

 今回は、このDVDに収録されている3本の中から、『アブラハム物語』をご紹介したい。

 クレイアニメーションというと、どうしても子ども向けというイメージがある。しかし、本作品は決してお子さまランチではない。アブラハムの苦悩、葛藤、悲しみ、苦しみが、しっかりと描かれているのだ。

 特に、イサクをささげるように命じられたシーンは圧巻である。驚愕のあまり、張り裂けんばかりに目を見開いたアブラハム。それでも、必死になって神に訴えるのだ。「ひどすぎます! なぜ、我が子を!」。しかし神は、繰り返し、繰り返し、強い口調で迫る。「イサクをささげよ!」。

 葛藤の末に、神に従う決心をしたアブラハムは、イサクを連れてモリヤ山を目指す。辛い辛い旅である。

 一方、アブラハムの苦悩の表情から、サラはただならぬものを感じていた。居ても立ってもおられずに、旅立った2人の無事を、懸命に祈るのだ。サラの背後の祈り。聖書に記述はないが、なるほどとうなずける。私には新しい視点であった。

 粘土が演じる人間物語。子どもはもちろん、大人にも見ごたえ十分な作品である。