DVD 試写室◆ DVD評 118 モーセDVDの比較①
「十戒 キングダム・オブ・アーク」

DVD「十戒 キングダム・オブ・アーク」
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師

苦悩するモーセ─等身大の男として

 「十戒 キングダム・オブ・アーク」が描くのは、徹底的に苦悩するモーセの姿だ。全編、モーセの眉間から縦じわが消えることはなく、沈うつな表情が崩れることもなかった。

 しかし、神によって与えられた使命の大きさを考えるなら、無理からぬこと。強大な王国エジプトから同胞を解放する。しかも、聖書によれば、壮年の男子だけで60万人(この人数に関しては諸説あり)を率いて、約束の地を目指すのだ。彼の感じた重圧は、どれほどのものだったろうか。

 本作品において、モーセは、この重圧に耐えかねて、実にストレートに神に抗議している。「私を選んだのは間違いだ!」「なぜ、私を選んだ! 私は、普通の男としての人生がほしい!」。そして、あまりのつらさに号泣する。

 もちろん、ここに描かれているモーセ像は、あくまでも製作者の解釈に基づいたものだ。映像化された聖書物語を観る時には、常にこのことに注意しなければならない。

 また、聖書の記述とは違い、M:I-2やエニグマ等に出演したダグレー・スコット演じるモーセがだいぶ若いのも、人間臭さを出すための年齢設定だったのかもしれない。ストーリー展開も、細かい部分で聖書とは違う部分もある。

 しかし、それでも、この作品が描くモーセは、非常に説得力があり、リアル、等身大だ。ここに描かれているモーセの苦悩は、観る者の心に迫ってくる。

 また、この作品を通して、砂漠の旅の過酷さを垣間見ることもできる。さいなむような太陽。容赦なく襲いかかってくる砂嵐。水不足による危機的な渇き。背後から攻撃を仕掛けてくるアマレク人。そして、目の前に果てしなく広がる砂漠、砂漠、砂漠……。

 戦闘シーンも非常にリアル。乾いた砂地にしみこむ血の、鉄臭い匂いが感じられるようだ。しかし、最も衝撃的なのは、ラストの金の子牛事件である。偶像礼拝を選んだ同胞を、アロンが先頭に立って殺すのだ。

 小学2年生の末娘が一緒に見ていたのだが、「なんで……! 仲間でしょ?」と言ったきり絶句してしまった。ほんの数行で記録されているこの事件が、それほど衝撃的な出来事だったことを、映像を観て、私は初めて実感することができた。

 そして、忘れてはならないのが、紅海が割れるシーン。チャールトン・へストン主演の「十戒」(1956年)でも話題になったが、あれから50年以上経った本作では、CGを使って、すごい迫力に仕上がっている。

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