DVD 試写室◆ DVD評 あの勝海舟が、あの西郷隆盛が、聖書の影響を受けていた!
「聖書を読んだサムライたち ―龍馬をめぐる五人の男たち―」後編

「聖書を読んだサムライたち」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師

今井信郎という名前を聞いてピンとくるのは、よほどの歴史ファンであろう。彼は、かの坂本龍馬を暗殺した人物だ。
前回に引き続き、DVD「聖書を読んだサムライたち」をご紹介しよう。前回は、勝海舟、西郷隆盛といったビックネームを取り上げたが、今回スポットライトを当てるのは今井信郎をはじめ、知る人ぞ知る侍たちである。
今井は、戊辰戦争を五稜郭まで戦い抜いた末に降服。反乱罪とともに龍馬暗殺の罪に問われる。本人は死刑を覚悟していたようだが、西郷隆盛の助命活動により極刑を免れた。これはいかにも西郷らしい。前回述べたように、彼はキリスト教に感化を受け、「敬天愛人」をモットーにしていた。盟友を斬った男をも赦し、助けたのだ。今井は生涯、西郷に感謝していたそうである。
特赦後、今井は静岡県初倉村に入植。彼も西郷同様、キリスト教に出会い、洗礼を受ける。やがて、初倉村の村長になって、農業の発展と教育に尽力した。
この今井が斬った龍馬の甥が、坂本直寛である。若いころは、板垣退助の立志社において自由民権運動に情熱を傾けた。立志社では西洋の文化、社会を理解するためにキリスト教を学び始めるが、多くの者が感化を受けて入信。直寛もその一人であった。
後に、保安条例違反で投獄され、過酷な牢獄生活を送るが、その中で聖書を心のよりどころにし、ますます信仰が強められる。40歳を過ぎてから、一族を引き連れて北海道へ移住。蝦夷地開拓という、龍馬が果たせなかった夢を引き継いだのだ。彼の開拓は、北見市発展の礎となった。
そして明治35年、親交のあった植村正久牧師の勧めにより伝道者に。特に監獄伝道に力を入れたのは、自分も劣悪な監獄生活を体験したからだろう。直寛について、坂本龍馬記念館の森館長のコメントが収録されているが、これが非常に興味深い。
「龍馬の想いをいちばん継いだ人物が直寛です。彼の生き方が、龍馬が生きていたらどうなったかを感じさせる、ひとつの大きなヒントだと言えるでしょう。龍馬が直寛と同じ道に生きた可能性もありえます」龍馬が暗殺されずに生きていたら、キリスト教に出会い、クリスチャンになっていたかもしれないのだ。そして、森館長が言うように、直寛と同じようにキリスト教に深く傾倒し、伝道者になっていたかもしれない……! そう考えると、なんだかぞくぞくする。龍馬の説教、ぜひ聴いてみたいと思うのは、私だけではないだろう。