CD Review ◆ CD評 『PSALMS HYMNS & SPIRITUAL SONGS』


塩谷達也
ゴスペル・シンガー

ただ主へと向かわせる歌

 クリスチャンならだれでも、心から主を賛美する時に包まれる、何とも言えない安らぎを味わった経験があるでしょう。ゴスペル・ミュージックにはなじみがないという方でも、賛美歌の持つ不思議な力に、日々励まされている方も多いのではないでしょうか。ドニー・マクラーキンは、賛美歌が持っている素朴な響きを大切にしています。この二枚組CDの一枚目には、シンプルな賛美歌やプレイズ・ソングがたくさん収録されていて、心を合わせて彼の唄を聴いているだけで、私たちを子どものように素直に主に引き寄せてくれるのです。

 日本でもゴスペルが広く歌われるようになって、ブラック・ゴスペルの持つ独特の解放感を知った人たちも少なくありません。リズムに乗って心から主に向かって叫ぶ、突き抜ける賛美の喜びは何物にも代え難いものです。ドニーは、黒人教会で牧師のたたみかけるような説教を聴き、うねるようなビートとハーモニーの中で育まれました。彼の音楽は、数百年の間、奴隷制や差別に苦しめられてきたアメリカの黒人達の魂の叫びと賛美、信仰の歴史の上にあるのです。二枚目では、そのような伝統的なゴスペルが満載で、リスナーは賛美の大波にさらわれ、魂が引き上げられる経験をすることでしょう。ここに、彼が今世界中で用いられている理由があります。彼は、賛美歌、ゴスペル、黒人霊歌、プレイズ・ソング、など様々なスタイルの賛美の橋渡しをする存在として人種を越え、人々をただ主へと向かわせる歌を歌っているのです。

 そんな今絶頂期を迎えている彼が、日本の福音伝道のためにも重荷を負って、今年五月に東京でゴスペル・ワークショップとコンサートを開催します。このアルバムでも、「谷川の流れを慕う鹿のように……」と日本語で歌う彼は、世界には様々な人々がいて、それぞれにふさわしい福音の伝え方があると語っています。ともすれば世界に対する視点が欠けがちな米国からこうした器が生まれてきていることに僕は希望を感じています。