CD Review ◆ CD評 『Every Little Note』

Every Little Note
ライフ・ミュージック

一人一人が、かけがえのない存在であることを、そっと教えてくれる歌声

 なんて大らかな歌声でしょう。アコースティックで優しい聴き心地のバンドサウンドがレーナ・マリアさんの歌声をより一層際立たせています。

 ここ数年、活躍の領域をひろげ続ける彼女のニューアルバム『エブリ・リトル・ノート』。幼い頃から、重度の障害に決して負けずに歩んできた彼女の生き様そのもののように、本作も人間への力強い励ましと優しい眼差しに満ちた素晴らしい作品に仕上がっています。つらい時、哀しい時、その歌声にぜひ耳を傾けてみてください。歌詞の一節一節が胸にしみ込んでくるようで、一筋の涙とともにあなたに励ましを与えてやまないでしょう。

 例えば、彼女が歌う「上を向いて歩こう」。決して彼女以外のシンガーには出すことはできない本当の励まし。もっと上手な歌手はいくらでもいるかもしれません。しかし彼女の歌は「魂の歌」そのものなのです。私たち一人一人が、かけがえのない存在であることを、そっと教えてくれる歌声。私たちはそんなかけがえのない存在であるゴスペルシンガーと同時代に生きていられる幸福を思わずにはいられません。

 本作では「クリスチャン・ミュージック」という枠組みにとらわれず、様々なタイプの曲を歌っています。前述の「上を向いて歩こう」はじめ「翼をください」「見上げてごらん夜の星を」は日本のポピュラーソングとしてあまりにも有名な名曲。その「ことば」の美しさは新たな感動を与えてくれます。

 長年、レーナさんのバックで、ピアニストとして活躍するアンダース・ウィークさんによる、上品さとやんちゃさを合わせ持ったモダンジャズ感覚あふれるアレンジによる「What A World It Would Be」「この素晴らしき世界」「ピエ・イエス」。

 また作曲家としてレーナさんの自作詩に曲をつけている、夫のビョーン・クリングバルさんの存在が、本作に深みを与えています。「詩篇139篇」「I am So Happy」「Love Is What We Need」。彼女の真骨頂であるゴスペルソングがアルバムの中で際立っていることは言うまでもありません。

 数百曲の候補から選ばれたという全十二曲。クリスマスシーズンを彩る新たな傑作アルバムがまたひとつ誕生しました。