話題の新刊ちょっとさわり読み! 『心の部屋を空けて』

心の部屋を空けて

 この「孤独」は一昔前の哲学的なイメージのものとは異なり、現代の社会や文化の病理を背景としていて孤立や逃避・回避といった性格を帯びているものです。「傷ついた孤独」とでも言っていいでしょうか。愛されず認められず、それゆえ、生きていく力や希望がもてないという、どこか「見捨てられ感」「見捨てられ不安」といった感情を強く伴った孤独です。

 ここに収められたエッセイは私が牧師、カウンセラー、教師として、その種の「孤独」の中に置かれている人たちと臨床的に向き合って気づかされたことを書き記したものです。こう言うと、いわゆる通常のカウンセリングを想像される方もいるかもしれませんが、その種の本とは少々異なっています。

 たとえば人が心に深い悩みを抱えた場合、本人も周囲の者もその悩みを取り除いて早く解決したいという気持ちになります。それが普通の感情であろうと思います。しかし、ここに見落としてはならないことがあります。それは悩みというものの中には隠された大切な意味も含まれていますから、ただ解決だけを考えてはならないということなのです。

 悩んでいる人の気持ちを考えると簡単には言えないことですが、私がいつも思うことの一つは「せっかくの悩みだから」その時を大切にしたいということです。そしてそこから人間とは何か、どこから来てどこへ行くのだろうか、また生きる意味や人生の目的とはいったい何かというような問題について考えてほしいのです。(本文より)