中国クリスチャン事情
~今、信仰を求める人々 より原文に忠実に若者たちにも聖書を伝えたい

アンドリュー・ファン博士
環球聖経公会 Worldwide Bible Society国際総幹事

中国政府から唯一認められ八十年以上使用されている中国語聖書は、正式な北京語によるChinese Union Version(以下CUV、和合本)。これまでもほかの訳による聖書がなかったわけではないが、中国国内での印刷・出版が公式に認められているのは古くから使われているこのCUV聖書だけである。
だがこれは、時代とともに中国や海外に住む若者にとって読みにくくなっていた。そこで、今回出版された『新約聖書 日中対照』に使用されているChinese New Version(以下CNV、新訳本)の聖書翻訳が三十年ほど前に始まったという。
「主に用いられるしもべたちが、新しいバージョンの聖書を作る必要性を感じたのです。そして、中国語聖書の翻訳委員会を設立しました。当時の非常に有名な牧師や学者たち四十人ほどが、二十年かけて翻訳したのです」
そう語るのは、世界各国での出版や改訂などを通して、四年前からこの働きに加わっているシンガポール育ちのアンドリュー・ファン(黄朱倫)博士。翻訳では、特にふたつのことに留意したという。まずは、「わかりやすく」。何が書かれているのか、読むだけで理解できるように、と心がけた。そして「原文に忠実」。ヘブライ語やギリシャ語の原文に忠実な翻訳とするために十年以上改訂を続け、現在の形となったそうだ。
主流であるCUV聖書は、「政府が認めた印刷会社でのみ、毎年三百万冊印刷されています。主に三自教会内で販売しており、高いものだと百人民元(一五〇〇円程度)ですが、十一、二人民元(二百円以下)のものが多いです」。都市部には牧師が何十人、執事が二百人、七~八千人規模の教会があり、一度に全員が入れないため、朝から晩まで礼拝をするところもあるという。聖書販売を担えるのも納得だ。
一方、CNV聖書も、「CUVとの対照で、両方の訳を使う教会も増えてきています。台湾や香港ですと全体の十~二十%を占める百を超える教会で使用されていますよ。毎年、ミッションスクールの新入生に八千冊贈っています」と、ファン博士。読みやすいため、伝道用にと、田舎で無料配布している団体もあるそうだ。
シンガポールでは半数、マレーシアではほとんどの中国教会で使用されている。英語に続き、日本語対照も出版された。この新たな翻訳聖書の登場は、中国にどのような影響を与えていくのだろう。