ブック・レビュー 難解の書を、現代にも語りかけることばへ

 『箴言 ティンデル聖書注解』
デレク・キドナー 著
竹内茂夫 訳
旧約聖書学者

昨年十二月に『箴言』が出版され、ティンデル聖書注解シリーズ全四十八巻は、あと四巻の出版を残すのみとなった。旧約聖書シリーズでは、一九六四年にデレク・キドナーの『箴言』が最初に出版されたが、それから四十八年かかって日本語訳が出版されたことになる。しかし、教会形成のために、神のみことばへの全面的な信頼に基づいて始められた同シリーズは、ちょうど今、世界的に旧約聖書の意味とメッセージへの興味が起こってきた機運とあいまって、新鮮さを失わずに完結を迎えようとしているのである。
旧約聖書において、「箴言」は「伝道の書」「雅歌」とともに難解の書の一つである。複数の著者によって、四百五十五の格言とアルファベット歌が一見無秩序に羅列してあるからである。キドナーは、七十五ページからの注解に入る前に、箴言の内容を八つの主題にまとめている。一「神と人」二「知恵」三「愚かな者」四「なまけ者」五「友人」六「ことば」七「家族」八「いのちと死」。さらに、巻末には一〇三項目の手頃な「小語句辞典」をつけている。
厳密な言語研究と幅広い古代オリエント世界の思想研究を背景にしつつ、八つの主題により、現代にも語りかける新鮮さを失わないようにとの著者の意図は成功していると言えよう。とくに、「友人」「家族」「いのちと死」は箴言独自の視点を提供してくれる。例えばヘブル語の「ハイーム」(いのち)は、箴言で三十二回用いられているが、キドナーは並行法を手がかりに、三つに大別する。すなわち、?物質的かつ社会的な「ハイーム」、?人格的または心理的な「ハイーム」、?道徳的かつ霊的な「ハイーム」である。
結論を言えば、「ハイーム」は、概念的な「生命」や生理的、身体的ないのちではなく、神の恵みによる人生の多様な〝祝福の状態〟を表現する用語として用いられている。
キドナーの注解には、英語圏ではよく知られていても、日本人にはよくわからないフレーズが多い。『箴言』の簡潔かつ詩的とも言える表現を、ヘブル語と英語の言語の壁を超えて、今の日本の読者の心に触れるまで、こなれた訳文にされた訳者の労苦に感謝したい。