さわり読み 注目の新刊
『スンウ 12歳の明日』
さわりよみ! PART2

『スンウ 12歳の明日』

『スンウ 12歳の明日

スンウ、12歳。余命3か月の妹のため、転がり込んできたやくざの男とともに母を捜す旅に出る。貧困、孤独、差別……。どん底の不幸にあっても、人を信じ、愛し続ける少年の、切なくも心あたたまる感動の物語。

スンウ:主人公の少年。12歳。左脚が右脚よりも短い障害を負っている。父は他界、母は行方知らず。
ヨンヒ:スンウの妹。8歳。余命3か月。
ナルチ:組織と警察に追われるやくざの男。
おじいさん:マンションの警備員。スンウのよき理解者。

前回からのあらすじ
スンウの唯一の身内である妹ヨンヒは、余命3か月と告げられた。「お母さんに会いたい」と言うヨンヒのため、スンウはヨンヒを連れて母を捜しに行くことを決意する。そんな時、スンウのもとに一人の男が転がり込んできた。組からも警察からも追われる暴力団員のナルチだった。二人の子どもを隠れ蓑に逃亡を図ろうとするナルチと、兄妹の母親捜しの旅が始まった。
あっという間になくなってしまう、猫の口許の飯粒みたいな情けに引きずられ、子どもと釜山に流れる気など露ほどもなかった。しかしヨンヒを再び背負った瞬間、ナルチには麗水から逃れる絶妙な考えが浮かんだのだ。救急車を使ったら、どんな検問も難なく通過できる……。おまけに昏睡状態に近い患者まで用意されている。それこそ脱走のための完璧なシナリオだった。

案の定、ナルチたちはサイレンを鳴らしながら麗水から釜山まで、一度も引っ掛かることなく逃げおおせた。

幼い兄妹の置かれている状況など念頭になかった。身を隠すには大都市のほうがいい。そして、これからスンウを利用しなければならないことが必ず起こる。



「病院で言われたんだ。長くてあと三か月だって」

「何で今まで黙ってたんだ」

ナルチはそう言って、はっとした。俺は今までヨンヒの容態をたずねてみたことがあったか。八つのガキが死のうが死ぬまいが、どうでもいいと思っていたんじゃないのか。しかしナルチはさらに問いただした。

「じゃあ何で、病院にじっとしてないで逃げ出したりしたんだ」

「病院にいたらヨンヒは死んじゃうもの。ただじっと死んでいくのを待つなんて……。だから母さんに会わなくっちゃいけないんだ」

「治らない病気なら、おまえの母ちゃんがいたところでどうしようもないだろう。ヨンヒが、死ぬ前に母ちゃんに会いたいとでも言ったのか?」

「ヨンヒは何も知らない。でも母さんに会えばきっとよくなるんだ」

スンウの目に涙が浮かんだ。さんざん殴られたり蹴られたりしても、泣き声一つあげない子どもがだ。自分でも気付いてない、何かがスンウの内に潜んでいるとでもいうのか。



「保護者のこときかれなかったか?」

「母さんが来ますって言ったよ」

「そんな見えすいたうそ、よくばれなかったな」

「母さんはぼくがきっと見つける。ヨンヒが死にそうなのを母さんが知らないでいるなんて、そんなのあんまりだもの」

ナルチにはとうてい理解できない子どもだ。

年齢に比べて妙に大人びたことをするかと思うと、分別のないただの青二才のような時もある。どちらが本当の姿だろう。はっきりしていることは、ナルチの持っていない何かがスンウにはあるということだった。妹を大切にする心、あるいは母親を捜し出そうとする強い意志とは違った何かが。

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