ブック・レビュー 人を愛すること、いのちを愛することを伝えたい

 『ティーンズのための命のことが分かる本 ~生と性のはなし 』
水口 洋
玉川聖学院中高等部長

本著は、学校教育や教会教育の現場が待望していた生と性を考えるテキストだと言える。必ず性教育を推進していく助けになるものと確信する。
本著の特徴の第一は、著者が三十年以上も助産師として、出産という厳粛な現場で、二千人以上の赤ちゃんの誕生に立ち会ってきた経験が、この事実を正確にそして十代の人たちにわかる言葉で伝えたいという思いにつながっている点だ。そのことが全編を通してバランスのとれた、そして実に配慮の行き届いた内容にまとめられている。テキストとしてふさわしいと思えるのは、このバランス感覚だ。
第二に新しいいのちとの出会いが、「生まれてきてくれてありがとう」という、いのちの尊厳への眼差しへと著者を導いていることだ。このいのちへの愛着が「教科書的な冷たさ」を感じないで読み進めることを可能にしている。性の問題をいのちの問題と定義することは容易だが、具体的で実際的な問題として扱うことは難しい。その点で本著はわかりやすい。いのちを大事にすることと、自分の性行動への責任を持つことが、本質的な部分でつながっていることが、自然な形で読者の心に届けられる。祝福された生涯はこのいのちへの想いを持つことから始まることが心を込めて語られている。
第三に、たくさんの悲しみや社会の現実を直視した上で、それでも祝福がここにあることを伝えている点だ。性をめぐる悲しい現実に立ち会うことも多い著者だからこそ、次の世代の人たちを守りたいという想いが語られる。悩んだ時の相談窓口として自らを開放し、各地での啓蒙活動(「いのち語り隊」とは素晴らしいネーミングだ)を行いつつ、この本が著されているところに特徴がある。
人間の問題の多くは、体の問題だ。心の問題、魂の問題とともに、この生身の体の問題をどう扱うかは、教育を考える私たちの共通の課題だが、この時代にふさわしい書物が出たことを感謝したい。多くの場所で用いられることを祈るものである。