ブック・レビュー どのように日本史を教えるべきか


城倉 啓
日本バプテスト連盟 泉バプテスト教会牧師

この本は、二〇一四年二月十一日に行われた集会の講演原稿に加筆されたものです。その集会の実行委員で直接著者のお話を伺った者として書評の任に当たることができ、幸いです。
いわゆる「自由主義史観」に基づいた、史的信憑性が薄く、民族主義・国家主義むき出しの歴史教科書への批判については、評者も心得ているつもりでした。ところが、本書が果敢に批判しているのは、天下の「山川出版社の歴史教科書」なのです。いつのまにか「山川なら安心」≒「検定をパスした教科書なら安心」という図にはまり込んでおり、新鮮な驚きがありました。本書は、歴史教科書が天皇制について学習者に擦り込みを与えていることに警鐘を鳴らします。「万世一系の天皇が昔から今に至るまで民のことを思いやっていた」という類のファンタジーは史実とかけ離れており、学校で覚え込ませるべきではないのです。では、どのように日本史を教えるべきか、現場の教師でもある著者の提言は示唆に富んでいます。例えば時代区分の改変です。天皇の代替わりに依拠しないで(大正時代は短すぎる)、政権の性質に着目して分ける方法が合理的です。確かに一九四五年は「大日本帝国」と「日本国」の重要な分かれ目です。本書の問題意識は、国家が教科書の検定を行っているという「教育への制度的干渉」に及んでいます。隣国との「共同教科書(両論併記も可)」を含む自主教科書の発行と、各学校、各教師に教科書選定の裁量を認めることが望まれます。
さらに、信仰者にとっての聖書と、生徒にとっての教科書との異同についても思いをはせることができました。歴史教科書は最低限、「史実」に反する内容を載せるべきではありません。しかしながら、解釈を経ない歴史記述や、解釈を施さない読み行為はありえません。自分の良心的な生き方と重なる解釈を施せば、どのような教科書でも意味を見いだせるものです。著者はそのことの実例を本書において証明しているように思えます。自分の頭で考えたい人にオススメです。

『日本史教科書の中のファンタジー』
岡田 明 著
A5判 1,000 円+税
いのちのことば社