ブック・レビュー お母さんが力みすぎると、子どもはゆっくり育てないもんね

 『ゆっくり育て子どもたち 発達相談室で僕が考えてきたこと』
結城絵美子
フリー編集者

子育てというものは、母と子だけの密室で一生懸命になればなるほど、目先のことばかりが大問題に見えてきたり、良かれと思ってやることがあだになることが多いような気がする。そんなときに第三者が風穴をあけてくれると、思わぬ世界が見えて、ふっと楽になることがある。
本書は、そんな風穴の役割を果たし、具体的なアドバイスを与えてくれる。発達障害児のことを念頭に書かれているが、著者が述べておられるとおり、発達障害児と「正常児」の境界線ははっきりしておらず、「正常」な子でも苦手なことや偏った部分が少なからずあるという意味において、本書は「発達障害」を理解する助けになると同時に、「普通の育児」を助けてくれる本でもある。
たとえば、わが家の十一歳の息子は、ちょうどこの「発達障害」と「正常」の境目くらいにいると思われる。忘れ物が多く落ち着きのない彼は、小学五年生になってもランドセルを忘れて登校しようとする日さえある(やっぱり、立派な発達障害? まあ、どっちでもいいや、と思えるくらいには母もようやく成長した)。
何度叱っても治らない悪癖に、「まだこたえないのか? この叱り方ではまだ甘いのか?」とこちらもヒートアップしていく。もう、虐待寸前。そんな私は、本書にある「生来的にもつ弱さを、本人の思いを無視して訓練により強制的に治そうとすること」(二三頁)の弊害に対する警告にゾッとする。これぞまさしく、「この子のために、親がしなくて誰がする」と思ってやるうちにエスカレートしてしまうことではないか。
でも、考えてみれば、人が誰しも生来的な弱さを持っていることは自明の理なのだ。そんな当たり前のことを思い出させ、限界や弱さがあっても、「僕のいいところは、お母さんやみんなが知ってくれている」というやわらかい心を育てられる存在こそ、親であり家庭なのだと諭してくれる本書。育児が苦しくなってきたときに開けば、一息ついてまた一歩を踏み出せるのではないだろうか。

『ゆっくり育て
子どもたち
発達相談室で僕が考えてきたこと』
鍋谷まこと 著

B6変型判 1,050 円
フォレストブックス