ブック・レビュー 『老いること、死ぬこと』

『老いること、死ぬこと』
小林 和夫
東京聖書学院名誉院長

人は死にさえ希望を持つことができると、かなたを指さす

 短期間に三版を重ねた『老いと死を考える』が、この度、森優氏との共著で版を改め、装いも新しく出版された。いろいろな角度から「老いること、死ぬこと」が考察され、また聖書的な立場から読者が希望を持つことができるよう希望が込められている。

 著者は「老いること、死ぬこと」の最後に残る課題はスピリチュアリティ(霊性)の問題であるとする。「スピリチュアリティ」の問題は人間観や世界観にも関わることであり、いわゆる医学的ケアーのみで処理することは困難である。同時に、キリスト教にはなじみのない我が国の歴史と文化の中で、精神的遺産を受け継いできた日本人が、著者が提示する聖書のメッセージに深く耳を傾けるように勧めている。

 「老い」とは誰しもが享受できるものではなく、長寿を与えられているということを感謝し積極的に受け取るべきものであると本書はいう。政治的な、経済的な関わりの中で国家の高齢者に対する対策は厳しい。その現実をも鋭い目で見据える。確かに国家に完全に身を委ねることはできないだろう。老いが極まれば、自他ともに苦しみは増していくことは想像に難くない。だが、困難に目をつぶるのではなく、人間を生かし超えるものに思いを向け、信頼すべきであると勧める。

 第二部では、多くの哲学、宗教、思想における「死」の意義を語るが、「死」そのものの解釈はあいまいであると指摘する。ここでも、現在の医療に携わる方々の苦悩を理解しつつも、著者は現代の医療だけでは死を受容することはなかなか困難であると厳しく受け止める。そして聖書の死生観をもつ時に、人は死にさえ希望を持つことができると、かなたを指差すのである。

 評者は鍋谷氏と親しくさせて頂いている。氏は若くして結核を病み、病と死と戦われ、また壮健でない奥様の健康を思いやり、使命に生きる篤学の士である。また森氏により深みが増した本書は深い考察を我々に提示する。