ブック・レビュー 『火は早めに消さないと』

『火は早めに消さないと』
菜花和男
日本福音キリスト教会連合・栄福音キリスト教会牧師

キリストの愛の教えを簡潔、単純明快に語る

 たった一個の卵を惜しんだ結果、イワンの家とガブリーロの家がとげとげしい関係となり、ついには隣家に放火し、村の半分を焼いてしまいました。

 トルストイのこの民話は、むさぼりを戒め、もめごとになる前に相手を赦し、謝罪して、小さいうちに芽を摘めと教えています。

 中心となる主題は、イワンのお父さんの息子に対する一連の忠告のことばに出ています。病気で寝たきりのお父さんが両家のもめごとの本質をよくとらえているのは不思議です。人生の先輩はそのようなものかも知れません。

 この絵本を一読してから書棚をあさりました。やっと角川文庫、トルストイ『民話 人は何で生きるか』(一九七二年)を見つけました。「火を消さずにおくと」が載っています。

 原作は文庫版で二十五頁にわたって詳細につづられています。絵本を読んだあと原作も一読するならトルストイの主張をなお深く味わえるでしょう。

 米川正夫氏の解説によると、トルストイの作風は、「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」を書いたあと変化したようです。人生の目的と意義を*藤のうちに求める中、古い幼年時代のキリスト教信仰に復帰しました。

 キリストの愛の教えを農民、労働者に理解し受け入れられるための手法として簡潔で単純明快な民話の方法論を採用しています。

 「たかが卵一個でおおげさなと」思うことですが、争いの発端とは案外そのようなことではないでしょうか。

 札幌は冬、隣家が雪を寄せてくるともめごとになります。毎日のように隣人関係の悪化が殺人にまで至るニュースを見聞きします。世界中で復讐の連鎖が、アフガン、イラク、パレスチナで続いています。

 「赦しなさい。火は小さいうちに消しなさい」作者の声が聞こえてきそうです。

 「もし人の罪を赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたを赦してくださいます」(マタイ六・一四)。