ブック・レビュー 『ホスピスでの語らいから』

ホスピスでの語らいから
窪寺 俊之
関西学院大学 神学部 教授

限りない癒しを与える珠玉の言葉が満ちている

 傷ついた魂を癒し、明日を生きる力を与えてくれるのは、目に見える美しさや物的豊かさではない。むしろ、静かに優しく魂に語りかける霊的な生きた言葉である。今日、街には読者の好奇心を刺激するだけの書物があふれている。

 この度、栄光病院の協力チャプレンの著者が、死に直面し、絶望の底に一旦は落ちたが、そこで永遠の真理に導びかれて、平安と希望をもって天国へ旅立たれた方々の生涯を書き記した本を出阪された。

 「ある妻は『今は、夫との良いことしか思い出せません』と語った。……『こういうわけで、人は、神が結び合わせたものを引き離してはなりません』(マタイ19・6)。この主のおことばは、罪人であることの弱さを教え、同時に、夫婦の契りの脆弱さについて警告している。しかし、それ以上に、神の恵の力強さの宣言でもある。」(44―45頁)

 著者は信仰に入って以来、日々、聖言に聴くことを最も大切にされてきた方である。聖書に関する書物はもちろん、学会誌に掲載される聖書関連の論文を丹念に読み、常に聖言の深みに触れようとしてこられた。こうした姿が本書の中に、あますことなく現われ、絶望と不安の中にある魂にも、限りない癒しを与えてくれる。同時に、悩み苦しむ患者さんと家族をしっかりと受けとめて、神様に全てを信頼する優しさで包み込んで下さる謙遜と忍耐が滲み出ている。「私はOさんの部屋に伺った。……Oさんは弱々しいがやさしくほほえんでくださった。『きついでしょう。Oさん、子どもたちはお母さんのことをしっかりと心に刻みつけていますよ。Oさん、すばらしいお母さんですよ』と私は言った。Oさんは涙を浮かべて聞いておられた。私はベットサイドで祈り、Oさんのもとを辞した。その翌日、Oさんは旅立っていかれた。」(65頁)

 本書は、著者の人柄・神学・祈りが一体となって完成している。どの一編も、私たちの魂の奥底でうずいている苦痛にふれ、限りない癒しを与える珠玉の言葉が満ちている。痛みに苦しむ方にぜひ読んでいただきたい一冊である。